静岡県・熱海の魅力をアートで再発見することを目的としたアートイベント「PROJECT ATAMI」。これは、知る人ぞ知るホテル・アカオを中心とする熱海市内エリアを舞台に、滞在制作型プロジェクト「ACAO ART RESIDENCE」と、アーティストをサポートする仕組み「ATAMI ART GRANT」の二本立てで活動するものだ。 「ACAO ART RESIDENCE」は、アーティストの制作活動支援のために、アトリエの提供や制作費をサポートする滞在制作型プロジェクトで2021年3月に始まった。1年を全4タームに分け、各ターム5名のアーティストを招聘している。 熱海を訪れた方にアートを身近に感じてもらう目的で、各アーティストが滞在中に感じた物事を表現する制作現場を鑑賞・体験することもできる。期間中は展示、トークイベントなど様々なプログラムがあり、ホテル宿泊有無に関わらず参加できる公開プログラムとなっている。
『ATAMI ART GRANT 2021』
[会期]
2021.11.16 Tue. ~ 12.12 Sun. Open 11:00-18:00 closed on Tue, Wed
[会場 ]
熱海市一帯
[入場料]
無料
会場は歴史あるリゾートホテル。

2021年3月からスタートした「PROJECT ATAMI」。同年12月に筆者が訪れたのは、「ACAO ART RESIDENCE」参加者20組と、「ATAMI ART GRANT」の授与者30組、合計50組の作品を見ることができる期間。多くのアーティストが参加し注目を集めているのは、惜しまれながら営業終了を発表したホテルニューアカオ(旧館)と、錦ケ浦を一望するリゾートホテルのACAO ROYAL WINGなどからなる「ACAO SPA&RESORT」だ。当日はホテルの前の通りに人だかりができ、2時間待ちの大行列ができていた。
新館の「ACAO SPA&RESORT」入口にて受付を済ませると、アールを描いた天井に、華やかな絨毯。「ACAO LOBBY MUSEUM」と題された回廊空間に、作品が展示されている。こちらはISLAND Japanがキュレーションした「HORIZON」の作品群だ。
アカオは2つの館から成っており、ホテルニューアカオとして親しまれてきた旧館(現在は休館中)と、錦ケ浦を一望できるリゾートホテル・ACAO ROYAL WINGなどからなる「ACAO SPA&RESORT」がある。
とりわけSNSで話題の中心になっていたのは、宿泊営業を終えたニューアカオ本館での特別キュレーション展「Standing Ovation 四肢の向かう先」だろう。
キュレーター・高木遊が手がけたもので、一風変わった展覧会として話題になっていた。来訪者は受付にてガイドブックをもらい、その指示に従って館内を回遊しながら作品を鑑賞するのだ。鑑賞の旅は、アカオ本館15階のエレベーターホールから始まる。
配布されるガイドブック。1つひとつシルバーペンで手書きされた「四肢の向かう先」が、言葉の意味を想像させる。
入場から既に期待感が膨らむユニークなロケーションとアート作品。
最初に目にする作品は、かつてのダンスホール「サロン・ド・錦鱗」に展示された、保良 雄〈Fruiting body〉
ガイドブックのページをめくり順路をさぐると、手順の指示がありエレベーターに乗ることに。ただし、ボタン上の階数表示は隠されている。
ひときわ強い地場を感じるのは、このホール。大きな全面ガラス張りの窓前に、断崖が見えるだろうか。ドリームキャッチャーをモチーフにした作品が異様な魅力を放っている。
館内に点在する吉田山による作品の一部。窓から見える海もまた作品を特別なものにする。

特徴的なプールに息吹を与えるのは、EVELAでも過去に対談してもらった渡邊慎二郎の〈靡く植物〉。
長く愛され続け、”ニュー”アカオと呼ばれながら今は旧館となった建造物。個性的なフォントが夕暮れにせつなくうつるが、その姿はどこか満足げではないか。
キュレーターからのコメント。
ホワイトキューブにこだわらず、さまざまな表現に挑戦するキュレーター・高木遊。「普段の展覧会とは異なる層の来訪者が多く、感想も動きもとても新鮮だった」と語る。
旧館から海に目をやると「えらばれなかった道」と書かれた幕。光岡幸一《poetry taping》(2021)
アカオ創業者の赤尾蔵之助氏の経営理念である「人の通りにくい道を進む」からインスピレーションを受けたものとのこと。
アカオ以外でも、熱海市内23か所のスポットがプロジェクトに参加し、作品を展示している。
アカオ以外の会場では。
アカオから少し離れたところにある「薬膳喫茶」も客足が絶えず人気だった。店名の通り薬膳にこだわった杏仁豆腐やドリンクがいただける店内には、松井照太の作品も。
薬膳喫茶の奥には、宿泊もできるコワーキングスペース「ユトリエ」。古民家が半分埋まったような建築は、思わず中をのぞきたくなってしまう。
アート作品を探しに、いよいよ島内へ。前半はツアー形式。
熱海市では、冬にも花火が上がる。コロナ禍で中止を余儀なくされていたが、このたび復活し毎週土曜日に開催されることとなったそうだ。
「PROJECT ATAMI」では、また新しい5名のアーティストを迎え入れた。こうして、さまざまなアーティストの出会いや物語が熱海で紡がれていく。滞在中の気付きや体験は十人十色。それぞれが異なった表現として、アーティストと街の魅力が融合した景色をを見せてくれる。
アートイベントだけではなく、6月にはニューアカオにて音楽イベント「RURAL」が3年ぶりに開催されるそうだ。天王洲をアートの街に変えた立役者が、今度は熱海の街にアートで新しい渦を生み出す。年に一度、一度きり、といったイベントが多いなかで、常に街を舞台にしたエネルギーが動き続ける仕組みは、街への愛着や鮮度を高める効果的な取組だ。温泉街・熱海は、いつの間にか文化の沸き出す街へと変わり始めていた。筆者はまた季節を変えてここに訪れるだろう。
Photo: TETSUTARO SAIJO
Text: REIKO ITABASHI