緊急事態宣言が続くなか、外に出かけられないストレスをかかえているのは、大人だけではない。親子でどこかに出かけた記憶が、遠い昔となってしまっている人も少なくない。イベントは大人だけのものではなく、子どものものでもある。2021年4月のGWに開催が予定されていた「恐竜ライブ ディノサファリ2021 特別編」は、二足歩行する恐竜型メカニカルスーツを使った教育×エンターテインメントショー。親子向けのイベントの最先端を見せてくれた。惜しくも緊急事態宣言で開催が見送られた公演から、子供も親も楽しめる教育イベントの可能性を考える。
#INSIGHTS OF EVELA
2:圧倒的情報量で子どもに伝わる、恐竜エデュテインメント
3:イベント後も親子で考えられる哲学的テーマ性
緊急事態宣言直前の恐竜ショー
GW直前の4月23日昼過ぎに東京・渋谷のヒカリエホールで行われたゲネプロを取材。緊急事態宣言が発令されるかどうか不透明な状況のなか、多くのメディアが集まっていた。その直後、緊急事態宣言が発令され、25日からの一般公演はキャンセルとなった。
会場の入り口には、こんな看板が。『ジュラシックパーク』を思わせるディティールに、子どものみならず、大人も期待が高まってくる。
ホール内には、芝シートと呼ばれる、ホールを歩く恐竜をより近くで見ることのできる座席が。ソーシャルディスタンスをとりながら、レジャー気分が高まる仕掛けとなっていた。
開演前の会場には、恐竜の死骸が。ちょっと刺激的なくらい、リアルにできている。のちほど、これは「生と死」という本公演のテーマを示す演出であったことがわかる。
ゲネプロだったが、メディアだけではなく、親子連れも多く参加。久しぶりのイベント体験に期待を抑えきれないでいた。
周囲四面にプロジェクションマッピングが映し出され、レンジャーが「KEEP OUT」のテープを外し始めたら、ショー開幕の合図だ。どこからともなく、恐竜の鳴き声が聴こえてくる。周囲の映像と立体感のある音響、そして目玉となる恐竜ロボットが渾然一体となりショーが進んでいく。
教育×エンタテインメントの神髄
舞台袖から突如現れたのは、2頭のユタラプトル。客席と客席の間の通路を、縦横無尽に歩き回る。全長4.8mと出演恐竜の中では小柄ながら、予想以上の巨大さと距離の近さに、ものすごい迫力を感じる。2017年にお披露目された「恐竜型メカニカルスーツ”DINO-TECHINE”」は、世界各国で特許も取得しているという。
ステージの中央に公演開始前から設置されていた恐竜の死骸をついばむユタラプトル。弱肉強食の世界を見せつけられる。食事を終えると、2匹は幕の後ろへと姿を消してしまった。
「みなさん! ようこそ!」ここでナビゲーター・サファリレンジャー隊のアンナが登場。恐竜の保護区を案内してくれるという。本作では、彼女が「博士」的な立ち回りで恐竜に関する情報を観客にインプットしながら、狂言回しとして物語も牽引してくれる活躍をみせる。本公演はエデュテインメント(教育×娯楽)を銘打っているが、教育の部分は彼女が話す情報によるところが大きい。
さっそくアンナさんから恐竜に関するクイズがスタート。問題は「ジュラ紀に生息していたステゴザウルスの、頭骨は小さいのに全長は7m。脳みそはどのくらいの大きさだったか?」。グレープフルーツくらい、野球のボール、ピンポン玉の3つから、正解だと思うものに拍手して答える。演者と観客の間で双方向のやり取りが可能なのも、イベントならではの魅力だ。ちなみに正解はピンポン玉。
実際のステゴサウルスのサイズを目前にすると、こんなに大きな体を、小さな脳でコントロールしていることに改めて驚く。するとそこへ、アロサウルスが。ステゴザウルスの匂いを嗅ぎつけて戻ってきたのだ。緊張の時間。両者が激しく威嚇し合う。レンジャーがアロサウルスを誘導し、事なきを得たが、実際はステゴザウルスも怒らせると怖いのだという。天敵であるアロサウルスを撃退したことがわかる化石も残っている。草食動物が肉食動物と対等に戦えることが、これほどリアルに伝わることはないだろう。
次に出てきたのは、スコミムス。ワニの祖先ともいわれる肉食獣だ。最初はおとなしかったが空に雲がかかって、機嫌が斜めに。アンナさんの指示に従い、観客はスマホのライトを使って、会場内の星空を演出する。スコミムスは満足げに去っていった。ライブなどで使われる演出を使うことで、観客と恐竜の触れ合いが演出される。
親子の心と頭に残るクライマックス
ここで、大雨が降ってくる。今日のサファリは中止……となるはずが、レアな恐竜がすぐ近くにいるという。白亜紀後期に生息していた暴君とかげの王こと、ティラノサウルス・レックス! 言わずと知れた恐竜の代名詞の登場に、会場の盛り上がりはピークに達する。
そこに運悪く現れたのは、トリケラトプスの子供。ティラノサウルスに見つかってしまった。追いかけてきた親トリケラトプスが、子供を必死に守る。親の迫力に怖気づいたのか、レンジャーに導かれ、ティラノサウルスは去っていった。
危機からのがれたあと、親子で身を寄せあうトリケラトプス。親子連れをターゲットにした公演であることを考えると、これ以上に心にうったえかけてくるシチュエーションが想像しがたい。
大団円を迎え、サファリも終わりかと思いきや、冒頭で死骸を食べていたユタラプトルが再来! 雄たけびをあげ、興奮しているようだ。興奮している理由は、彼らが卵を守っていたから。その必死さと、身を寄り添わせながら次世代を思う姿は、子を育てる人間の親の姿とも重なる。
ユタラプトルは、卵の安全を確保すると、餌を狩りにか別の場所に向かっていった。そして、最初は死体しかなかった会場には、卵が残されることに。この卵から、また新しい命が生まれ、生命が繋がっていくのだ。「数えきれないほどのその繰り返し、それぞれの生きようとする強い意志が、今の世界をつくっています」とアンナさんは語る。恐竜の祖先は鳥類となり、現代でも生きているのだ。こうして、1時間弱の公演は幕を閉じた。
感動を家に持ち帰る
公演会場を出ると、そこには物販コーナーが。子どもたちは、今日の思い出を家に持ち帰るべくほしいものを品定めしていた。
本物の化石から、おもちゃのフィギアまで、恐竜に関するアイテムが所狭しと置かれている。実際に動く恐竜を目撃してから見る化石は、これまでにない輝きを放っていた。
頭と身体がつながる=イベント×教育
教育テレビや学習マンガといった概念がある。教科書や授業ではない、テレビやマンガといった子どもが親しみやすいメディアで、教育的情報を伝えようとする試みである。ABCを覚えるための歌をアンパンマンが歌うテレビを見せられ、ドラえもんが教える四字熟語マンガを熟読した記憶が筆者にはある。
ただ、それらの試みは今思うと、どこか中途半端な側面あるところも否めなかった。映像やマンガとしては、どうしても教育向けではないものの方が面白いからである。今回の公演を見て、イベントにはテレビやマンガ以上に教育に関するポテンシャルがあることを感じさせられた。
今回の公演でそれを担保していたのは、圧倒的な既視感のない迫力を実現するメカニカルスーツだろう。生き物でないとわかっていても、目の前をすり抜けるTレックスからは身をかわさざるをえない。その体験と交互に、圧倒的な情報量をもつアンナのセリフから恐竜に関する知識を学ぶ。そんな頭と身体がつながる瞬間が、エデュテインメントというイベントがもつポテンシャルなのだ。
さらに、本公演ではそこに、親と子のきずなといった大人に向けたメッセージが盛り込まれていたことも忘れ難い。子ども向けとされる劇場版映画で親が号泣するように、本公演もまたターゲットは親子両方に向けられていた。
だからこそ、親と子が同時に見る価値がある「イベント」と本作は呼べるのではないか。家に帰ってからも親子で話しは尽きないだろうし、子どもが大きくなったときに何かで恐竜をみたら、この公演を豆知識とともに思い出すことは間違いないのだから。
恐竜ライブ ディノサファリ2021 特別編
(公演中止)
『体験型ライブエンターテインメント「DINO SAFARI」が、感染症対策を行い2年ぶりに “特別編” として渋谷にて開催決定!! 学びあり、驚きありの恐竜エデュテインメントライブとして再誕!―小顔で “ゴツカワ” なステゴサウルスが初登場!!―』
〈公式サイト〉
予定会期:2021年4月24日(土)〜5月9日(日)
上演時間:50分程度
チケット:一般入場券 ※すべて税込
・エリア自由席(1名)
平日:4,200円 土日祝:4,500円
・芝シート(2名)
平日:11,400円 土日祝:12,000円
・芝シート(3名)
平日:17,100円 土日祝:18,000円
・芝シート(4名)
平日:22,800円 土日祝:24,000円
Photo: VICTOR NOMOTO
Text: RIO HOMMA + SHINYA YASHIRO