U.L.ってそもそもなんだ?なんだか気になるU.L.ハイキング

巷でよく聴くU.L.系。U.L.とはなんなのか。アウトドアメディア 「GO OUT WEB」のアウトドア用語辞典によるとU.L.とは

登山スタイルの一つで、装備の軽量化を意味。 必要最小限の荷物で軽いギアを背負うことで、体力の消耗が抑えられてより早く、より遠くへ行けるように。 難ルートの危険性が低くなり、ヒザへの負担も軽減してくれるためザックやシューズが簡略化されたものでも山に入ることができる。
アウトドア用語集:U.L. (ウルトラライト)とは
とのこと。なんとなくイメージはつくが、人はなぜより軽く、より遠くを目指すのだろう。歩くことなら街中でだってできるのに、山へと導かれていく理由はなんなのか。なにやら、アメリカのトレイル文化が関係しているらしい。実際にはどんなところが魅力なのだろうか。その先に想像もしない体験が待っているのか。妄想は尽きない。

そこで、U.L.(ウルトラライト)ハイキングに通じている人たちに実際に話しを聞くことにした。それがいちばん手っ取り早い。とはいえゴリゴリに、山だけをアイデンティティとしている人だと偏りがありそうだし、近づきがたいのが正直なところ。アーバンな香りがする人たちで「こんなだけど実は山、行ってるんですよ」というニュアンスのクールな3人に話を訊いた。


山に行きたいけどなかなか一歩を踏み出せなくてウズウズしちゃっているシティボーイズ&ガールズに贈る、EVELA流のU.L.ハイク裏入門指南。

田代耕輔(マーシー)さん|ハイキングの記録、山や旅道具の紹介をしていくブログサイト「池尻ハイキングクラブ(https://tamashio.com/)」を運営する。U.L.系の道具も紹介しており、プロダクトの緻密なルポはその情報量と的確な指摘に舌を巻く。絶妙なセンスによって落とし込まれたひねりの効いたオリジナルアイテムも魅力的。EVELAでも紹介したポッドキャスト「Replicant.FM」にも登場。最近では自身のポッドキャスト「池尻と関中」(https://anchor.fm/ike-kan)の配信も開始。

澤邊 稔(べーやん)さん|世田谷にある自転車専門店、tempra cycleの店長。tempra cycleでは自転車の他、オーナーの趣味を活かしたこかミルスペックアイテムなど、自転車店の枠に囚われない幅広いラインナップのアイテムを販売。ピストの他、「OMM」レースにも参加。毎週木曜日、駒沢公園でグループランを開催している。

乙部 晴佳(オト)さんコロンビアスポーツウェア アパレルMD。コロンビアへの転職を機に本格的に山にのめり込む。海外のレースにも出場経験があるトレイルランナー。プライベートではカラーリングと柄を施したニット製のランタンやバーナーのガス缶カバー、クージーのように缶ビールを包み込むビール缶カバーを制作・販売する「Sound and River」を展開。

U.L.のルーツ「Make Your Own Gear」

読んでいたアウトドア雑誌をソファに放り投げ、山へ行く決心をしたとしよう。インドアもしくはコンクリートで舗装された街を拠点に生活しているシティ派は、情報をかき集めて不安要素を消したくなるのが性というものだ。そこでまずU.L.にカテゴライズされるアイテムをどのように選べばイイのかを考えなければならない。

日本で買えるU.L.アイテムはどんなものなのか。代表的なブランドはあるのか。モノ選びをする上で、カルチャーの成り立ちそのものを深堀りした情報が欲しい。そういった情報がインプットされることで、頭の中でマップとフローチャートが構築される。自ずと進むべき進路、つまり選ぶべきアイテムやブランドを指し示してくれるのだ。

——まず、3人が山と出会ったきっかけや経緯を教えてください

田代(マーシー)さん(以下:マ):もともと20歳からクラブカルチャーにハマって、クラブイベントを中心に行うイベント会社で働きながらファッションとかアートとか追っかけていました。その後ピストバイクを中心とした自転車のカルチャーにハマったんですけど、それも落ち着いて、毎週行っていたクラブも「同じおじさんしかいねえな」って思って、ちょっと自分の好きなものに違和感を感じていたんですね。そこで何か没頭できるモノを探していたとき、デザインとか何か尖ったことをやっている人たちが山に行ってるような気がしていて、自分も山に行き始めました。それが2014年くらい。

澤邊(べーやん)さん(以下:べ):僕もマーシーさんと同じでピストにハマって、周りの先輩たちが山行ってるなって気付いたんです。5〜6年前からちょこちょこ登り始めましたね。

乙部(オト)さん(以下:オ):わたしはもともとスノーボードが好きで行っていたんですけど、スノボにハマったことで夏が急にヒマに感じるようになっちゃって。野外フェスやキャンプをきっかけに山へ行くという流れで山登りをするようになりました。そこからガッツリ山にハマったのはColumbiaに転職してからですね。新しく出たアイテムを使ってみたいから山行きたいとか、そういった理由でいろいろな人と山に行くようになりました。周りにも山に登る人は多かったし、山仲間が一気に増えました。トレランもやっています。それがここ7年、8年くらい。

:トレラン“も”やってるってレベルじゃないけどね(笑)。オトさんはいちばんこの3人の中で山を走っている人です。

:コロナ禍になる前は、ですけどね。海外のロングレースとかも出てましたし、去年もモンブランの周りを140km走るスイスのレースに出ようと思っていました。でもそのレースもコロナでなくなっちゃって、日本のレースもコロナで全部なくなってしまったので今はトレランのモチベーションは下がってしまっている状態です。

——初歩的な質問で申し訳ないのですがそもそも“トレッキング”と“ハイキング”って違うんですか?

:日本だとほぼ同じ意味合いで使われてます。国によって言葉の意味合いが若干変わってくるみたい。

:ハイキングって、俺は散歩なのかなって思ってます。言葉の意味を調べたら「自然の中で散策をすること」という意味も含まれていたので、代々木公園を歩くのもいわばハイキングなのかもな?って思っています。

——皆さんはいわゆるU.L.ハイクに精通しているということで、U.L.ハイクとは何なのか、そしてU.L.アイテムがどのようにして生まれて、日本で広がっていったのか教えてください。

:僕の知る限り発祥はアメリカですね。レイ・ジャーディンというヒッピーみたいなクライマー・ロングトレイルハイカーの伝説的なおじいさんがいるんですけど、その人が作っている「Ray-Way」というメーカーから、いろいろなガレージメーカーに広がっていったんだと思います。その「Ray-Way」を通じて感じられたのが「MYOG」(ミョグ)という概念。

——ミョグ?

:「Make Your Own Gear」の略ですね。要は自分で自分の道具を作るということです。

:それを“MYOGる”とか言ったりします。どういうことかと言うと「Ray-Way」では完成品のザックが販売されておらず、ザックを発注すると生地と型と説明書だけ送られてくる。それを基にザックを自分の手で縫製して作るわけです。「山と道」のボスもその昔にそれを作って「これはヤバイ」と思って感銘を受けつつ、自身のガレージブランド(小規模でインディペンデントなアウトドアブランド)を立ち上げたとblogなどを通じて知りました。日本でのU.L.ブランドのさきがけは「山と道」ですよね?

:日本だとそうだと思います。

:当時、U.L.系の道具を輸入して紹介している人たちはいっぱいいたんですけどね。個人ブログにレビューがいっぱい載ってたんです。そこで情報収集してました。

:SNSに今ほど情報が溢れてなかったから、ブロガーの人たちが情報源でした。

:その点、自転車のピストバイクムーブメントとシーンの構造や成り立ちが似ているような気がしています。ピストで聞いた話だと日本のメッセンジャーがガチガチのマウンテンバイクとかロードの格好でアメリカの大会に出て、「なんでアメリカ人はラフなスタイルでシンプルな自転車(ピストバイク)に乗ってるんだ?」ってなってカルチャーショックを受けたらしいんですよ。そこから戻ってきたメッセンジャーから日本にもピストが広まっていったという認識。

:確かにそうですね。当時は情報が出てなかったからピストも個人ブログで情報集めていたと思います。

:アメリカは1,600kmくらいの大陸を横断するようなコースが何本もあったり、トレイル文化も発展しています。そこを歩くというカルチャーが根付いているんです。長い距離を歩く上でギアの軽量化が進んでいった。U.L.アイテムがアメリカで誕生したのは必然的と言えます。

——四国の「お遍路さん」みたいな。

:そこに宗教的な要素が全くないのも特徴です。

:完全にホビー(趣味)だもんね。

:「トレイルエンジェル」と呼ばれる、トレイルをする人たちを助けるボランティアの人たちもいるんです。道沿いとかそのエリアに住んでいる人たちが、水とか泊まる場所をサポートしてくれたり、ホスピタリティを提供しています。文化の成熟を感じますね。

:アメリカらしいよね。「お前あのコース踏破したのか」っていう会話が普通に成り立つし。

ファッションとU.L.、原理主義的な“山を舐めるなおじさん”との関係

:そういったアメリカのトレイル文化に感銘を受けた日本人が、文化を日本でも広めたいという思いでU.L.系ブランドの製品を個人輸入して、ブログで紹介する。それがU.L.アイテムが国内で広がっていった要因のひとつとしてあると思いますね。何日、何カ月もかけて歩くので、荷物は軽い方がイイ。荷物が軽くなると、見た目もミニマルでカッコイイ。だからファッションとも相性がイイような気がします。

——ファッションとのつながりについてもお聞きしたいのですが、コロナの影響もあり「ワークマン女子」が盛り上がっていて、ワークマンが山へ行くエントリーブランドとして広まっています。Daiwaのような釣りブランドがファッションコレクションを出していたり、アウトドア・アクティビティとファッションのつながりが密接になっている印象があります。皆さんはどのように見ていますか?

:アウトドアブランドのアイテムはそのシーズンだけでなく、人気のアイテムが定番として毎シーズンリリースされます。その間にマイナーチェンジを経てブラッシュアップされていったり、ファッションブランドやセレクトショップとコラボするようになり、10年前はガチのアウトドアおじさんしか着ていなかったアイテムを若い人たちがオシャレなものとしてスタイリングに落とし込んでいるのは面白いと思います。

:U.L.をコレクションに取り入れたブランドもあるみたいですよ。ファッションきっかけで山へ行く人が増えるのはイイことなんじゃないですか。

僕が「池尻ハイキングクラブ」をやっている目的のひとつとして、まったく行ったことのない人の、山へ行くハードルを下げたいというのがありますから。俺みたいな適当なやつが1人くらいいてもイイだろうという(笑)。

その背景には極端にU.L.ハイキングを嫌ったり、登山だけに限らず、「そもそも新しいカルチャーをとにかく排除する」ような、言葉を選ばずにいうと「自分のやっていること以外は認めない」原理主義的な、“山を舐めるなおじさん”の存在があります。

自転車の時にも感じたのですが、新しい価値観を持った人を受け入れないというのは、そのシーンにとってどうなのかな?という疑問が常にありますし、実際に僕も登山を始めた当初は格好や、経験の少なさで知らない人から批判のようなことをされて嫌な思いをしたことがあり、登山を嫌いになりそうになったことがあったんですよね。

:「山と道」を始め、U.L.系のガレージブランドはシャツとかショーツをリリースしていいます。それに対して“山を舐めるなおじさん”が食いついてきますよね。

:ショーツとか履いてるとね。“山を舐めるなおじさん”が「足を露出すると危ないよ」って親切心で言ってくれてるんです。だけど私は全然コレでもイケるよ?っていうのを証明したいんですよ。原理主義者に対してね。個人的には重たい荷物背負っている、オーセンティックな登山スタイルの人も全然アリだと思っていますし、見た目が軽装だからって徹底的にそれを排除しようとするのは違うんじゃないの?って。

:僕も今日持って来ているんですけど、山で履けるサンダルを履いて山に行くと高齢の方とすれ違ったときに「草履で来たの!?」って言われたことがあります。「怪我するよー」と言ってきてくれる人がたまにいるんですよね。でもこちらとしては当然、山での安全性を考慮してモノ選びしていますから、決して山を舐めてるわけではないんです。サンダルを危険な場所では絶対に履かないですし。

:一応言っておくと、俺とべーやんはコンパスと地図で山の中のチェックポイントを回る「OMM」っていう山のレースにも出ています。決められた登山道じゃなくて、藪の中とかにガンガン入っていく競技であり、そのレースは参加に関しては基本的に山の中でのリスクは全て自己責任というルールがあります。ですので、ただ「見た目やファッション的にU.L.な格好をしている」だけではなく、山でのリスクコントロールとか知識はある程度持っているようにしています。また継続的に学ぶようにもしており、格好だけではなく、そういったバランスが重要なのかな?と思っています。

道具としてのU.L.、ミリタリーとの共鳴

——マーシーさんは「池尻ハイキングクラブ」で数多くの道具を紹介していますけど、道具もやはり魅力のひとつですか?

:男の人は特にそうだと思う。

:“沼”の要素としてあるのは山の道具って、買っただけだと完結しないんですよ。使わないと話にならない。使ってみて失敗して反省、その繰り返し。綺麗にテント張れたとか、火を上手に起こせた、とかね。それが永遠に続いていくんですよ。

——U.L.アイテムとしてちょっと違った視点でモノ選びをしているのが面白いと感じるのですが。

:そういったモノを探すのが好きなんです。U.L.の観点として面白い部分ですね。今日着ているのは無印のジャケットとNIKE acgのショーツなんですけど、「池ハイ」でも紹介しています。街着の中から掘り出しモノを見つけて、それを山で使えるか試すのが個人的なブームです。何気ない街着が、意外とアウトドアブランドを研究して作られているのが分かる。まわりに怒られないように安全面とか機能性には配慮して選んでいますけどね(笑)。

:新しくどんどん山に登ってくれた人が増えてくれた方がカルチャー自体が盛り上がりますし、私はそれが建設的だと思う。ファッションが入り口でも全然イイ。フェスやキャンプきっかけで山へ登る人ももちろんいて、私の友達はそういった人が多いです。

——tempra cycleではミルスペック(軍用規格)のだっこ紐やベビーカーをオリジナルアイテムとして制作・販売していますよね?ミリタリーとアウトドアやU.L.アイテムとのつながりはあると思いますか。

:ウチのボスが軍モノが好きで作ったものなんですけど、つながりはあると思います。キャンプとか行くとミリタリーウェアを着ている人が意外といるんですが、機能性や構造はアウトドア・アクティビティと相性がイイですよね。

:アウトドアブランドでもミルスペックのものはメチャクチャ売れる印象があります。アメリカのアウトドアブランドだとミルスペックアイテムを出していることをステータスとして推していることもあります。

:確かに。PatagoniaのMARS(Military Advanced Regulator Systemの略。Patagoniaの軍用ライン)とか売れてるもんね。

:アメリカ軍向けに制作された表にロゴが入っていないPatagoniaのジャケットとかあるんですよ。めっちゃ探して買いました。そういった軍モノをバックボーンとして軽量化したものをU.L.として使うみたいな流れもある。

:最近のU.L.ブランドもアースカラーのアイテムを出していたりするのは、逆にミリタリー好きに訴求していたりするのかな?

:軍モノを好きな人たちが言うのは、基本的に日常で使われているものはミリタリーから落ちてきているっていうところ。携帯電話やインターネットも軍で使われていたテクノロジーだし、当時は機密だった最新素材が量産化されてアウトドアウェアに採用されていますから。

取材中、マーシーさんのバッグの中身を拝見させてもらった。インタビュー中、日本のU.L.ブランドの代表格としてたびたび登場している「山と道」の使い込まれたザックからおもむろに取り出していく。机の上に広げると、面白そうな道具がギッシリ。もちろん軽量であることを前提のパッキングである。実際に数日前に山に行っていたザックとその荷物の一部をそのまま持って来てくれたそうだ。

小さく折りたためる高級買い物袋の「ガサゴソバッグ」に、ヘッドライトやクラフトビールを美味しく飲めるように「mikikurota」さんで開発された保冷バッグ、寒くなったとき顔周りの防寒をサポートしてくれる、「山と道」のフードのみのアイテム「Only Hood」。乙部さんがハンドメイドで制作する「Sound and River」のニットガス缶カバー、「池尻ハイキングクラブ」オリジナルのランニングキャップ、Amazonでゲットしたという中国製のバーナー台など。さらには無印のミネラルウォーターのリフィルボトルは「お酒を持ち運ぶのに最適」とのこと。

利便性と携行性を兼ねたアイテムの数々に見える、使い込まれた形跡と張られたステッカーの数々。その人の嗜好が混じり合ってオリジナリティを醸し出しているのが趣き深い。そこがやはり道具の魅力なんだと感じた。

「ロンスポに行け」U.L.入門のススメ

——これから、U.L.ハイキングを始めたい人にまずはコレ、というオススメアイテムはありますか?

:やっぱり初めに道具を揃えるコスト的な部分がネックになってくると思うんですけど、彼女が最近U.L.にどっぷりハマって、意外とAmazonに売っているマイナーなジェネリック品でもイケるというのが分かりました。

テキストとして土屋智哉さん著作の『ウルトラライトハイキング』という本があるんですけど、それを昔から参考にしていて、レイヤリングやパッキングの構成を見つつ、ワークマンやAmazonで似た商品を探し、奥多摩とか低山で試してみたりしています。

:必要性で言ったら、優先されるのは靴とレインウェアだと思うんですけど、モチベーションが上がるのはやっぱりザックです。

:コレはもう満場一致です。靴とかレインウェアは安くても性能が良かったり、型落ち品で安かったりするもので初めは揃えてもいいかもしれません。そんな感じの商品が御徒町とか神保町に数店舗ある「ロンドンスポーツ」に大体あるから。行くとイイですよ。

:裏技的に安いですからね。

:道具はカッコ良くて気分がアガるものがいちばん。U.L.アイテムはシンプルで洗練されているし見た目がカッコイイから山へのとっかかりとして入りやすいと思いますよ。

——他に何か、これからU.L.ハイクを始めたいと思う人やU.L.ハイクに興味を抱いている人にアドバイスがあればお願いします。

:山に登ってみたら経験として道具の知識や山のことを学んでいけます。むしろそれが醍醐味ですね。

:最低限のマナーさえ守れば、“山を舐めるなおじさん”の存在は気にしなくても大丈夫。あの人たちも親切心で言ってくれているし、いきなり行って怒られるようなことは滅多にないです。登山マナーもガチガチにあるわけじゃないし、山に行く内に自然と身についていくハズ。

:行くかどうか迷っているなら一度行ってみるのがいちばんです。

:この前、知り合いがはじめてVANSで高尾山に登ってみた。みたいな話をききました。はじめはそれでもイイかもしれません。そこからどんどん道具をアップデートして、山のレベルも上げるみたいな。この記事を読んだらまずはロンスポに行け。ってことですね。

U.L.ハイクについては分かったが、いざ1人で山へ行くことには一抹の不安が過ぎる。インドア派のもやしっ子はあれこれ不安が絶えないもので、面倒くさい生き物なのだ。そこで「山へ行く仲間がいるかどうかは重要ではないか?」という質問を最後に投げかけてみた。

3人ともに「楽しみを共有できる仲間の存在は大きい」としながらも、山へは現実的にはタイミングが合ったら一緒に行く程度。誰も行ける人がいなくても月に1回から2回、1人でも山へ赴くそうだ。というのも夏山のオープンシーズンは意外と短く、気軽に楽しめる期間は限られていることにその理由がある。

べーやんさんは販売職なので周りと休みが合いづらく最初から1人で山へ登り始めたという。U.L.アイテムを買いそろえた当時「それで大丈夫?」とアウトドア仲間から心配されたので「めんどくせえから1人で登っていた」とはマーシーさんの談である。

ちなみに、マーシーさんは「本当に山へ登りたいと思った人は、DMで連絡してくれれば相談に乗りますし、一緒に登りますよ」と心強い返答もくれた。本稿を読んでU.L.ハイキングに興味が沸いたら「池尻ハイキングクラブ」にDMしてみるのは手だ。

山にまつわるアクティビティとコミュニティ、その変化

——あくまでマニアックなサブジャンル的な立ち位置だったU.L.がここ数年、メインストリームとしてメディアに取り上げられるようになりましたが、カルチャーの初期を知る皆さん的にはどんな心境なんでしょうか?歓迎すべきことだと思いますか?

:音楽で例えると分かりやすいと思うんですけど、好きだったインディーズバンドがメジャーデビューしたときのアレに近い感覚ですね。もしこの先、ユニクロとか大手のアパレルブランドでU.L.ハイクコンセプトのアイテムが出てきたとしたら、最初からU.L.をやっていきている人はその感覚に陥るような気がする。

:「アイツも変わっちまったなあ」って(笑)。

——山に入っていて、山を訪れる人の変化を感じたりすることはありますか?例えば、U.L.の人増えたなあとか。

:ひとくちに“山”といっても、山を用いたアクティビティはキャンプ、ハイキング、「OMM」レースのようなロゲイニングからトレラン、クライミング、いろいろありますからね。どこを切り取るかにもよりますよ。

:U.L.ハイカーに関して言えば、その人の服装で「あ、あの人U.L.だな」って言うのはけっこう分かりますね。特徴的なので。

:コロナ禍で今はそんなに人がいないというのもありますけど、U.L.の人と山ですれ違うと一瞬「知り会いかな?」って確認しちゃう。

:全体として、山に登った時に3割くらいはU.L.っぽい装備の人を見かけるようになってきているかな。肌感では。

——U.L.ハイカーを見て、「知り会いかな?」と頭に過ぎるというのは山のアクティビティをやっている人たちってそれぞれ繋がっていて、コミュニティが出来ていたりするんでしょうか?

:トレランもハイキングも山に入るという行為自体は同じだから共通言語があるんです。やっているアクティビティは違えど、情報共有としてSNSを活用しますし、山に入っている人たち同士でDMのやりとりをすることもありますね。

:トレランだとお店がやっているグループランで知り会いが増えることが多いです。そこで知り合った人と山に行くケースはよく聞きます。コロナ以前は実際そこが山の友達をつくる場になっていました。トレランのショップが開催しているのでそこに集まる人たちというのはもう前提として山で走るのが好きな人たちが集まっている。共通言語が出来ているから繋がりを構築しやすいんですよ。

——最後にマーシーさんにまとめていただきたいと思います。山に導かれたいちばんの理由、魅力って何ですか?

マ:旅の感覚に似てると思います。海外旅行に行って、成田から最寄りの駅まで帰って来るときって明確に感覚が変わるの、分かります? 何ともいえない非現実と現実が切り替わる瞬間というか。それが何なら東京の山でも味わえる。お手軽な旅感が山にはありますね。実際、動画や本で調べたら日本みたいに稜線を歩けるような山が近場でたくさんあるのは、世界的にもけっこうレアらしいんですよ。あと個人的にテクノが好きなんですけど、山って同じものの連続で意外とミニマルなんです。だから映像と音がリンクする感じが自分にとってのいちばんの魅力ですね。

冷蔵庫のようなゴツいザックを背負って、コンバットブーツのようなタフなトレッキングシューズ、というHEAVY&DUTYな装いもアウトドアスタイルの魅力ではある。一方で機能性と安全性を担保し、街歩きのようにカジュアルな服装で動き回れるU.L.スタイルは、山へのハードルを下げてくれるような気もする。

街から山へ、そこへ至る入り口やきっかけはさまざま。数ある選択肢の中で、ファッション性と機能性をバランス良く両立させるU.L.ハイクは、街と山をシームレスに繋ぐアクティビティと言える。より自由で軽やかに自然を感じられることこそが近年、U.L.ハイクが人気となっている理由のひとつなのかもしれない。3人の話を聞いて、想像は広がるばかりだ。書を捨て、街へ出たならば次は、街を出て山へ行ってみないか。


Photo: VICTOR NOMOTO
Text: TOMOHISA“TOMY”MOCHIZUKI