個性と多様性を肯定する、肩書きをひとつに絞らないスラッシャー的生き方。Niina、るうこ、カリンの場合。

SNSを主戦場とし、肩書きを一つに絞らず2010年代をサバイブし続けた人々が2020年代になり台頭、独自のポジションを確立し存在感を増してきている。そういった新たな働き方や生き方を体現する彼・彼女たちのことを"スラッシャー"と呼ぶ。例えば、モデル/俳優/アーティスト/デザイナーなどといったように複数のプロフェッショナルを持ち幅広く活動するため、スラッシュ記号(/)に由来してそのように称されている。
こういったひとつの型にハマらない、SNSを駆使した現代的な生き方は、自由なようであると同時に、先人のいない理解されづらい生き方でもあった。それぞれの人生がオルタナティブゆえに一般化できる話ではないけれど、これまでともに励まし合いながら同じ時代を駆け抜けてきたという、ある3人の女性たちにそれぞれの場合を聞き、これからの時代を強く生き抜くヒントを見出す。

(左から)
るうこ@rororuko|モデル/女優/ファッションプロデューサー。静岡県生まれ。27歳。
Niina@niina__official|女優/アーティスト/モデル/デザイナー。東京生まれ。26歳。
大社カリン@in_karin|モデル/画家。広島生まれ、東京育ち。27歳。

——多岐に渡る才能をそのまま仕事にしている3人ですが、現在に至るそれぞれの経緯を教えてください。

るうこ(以下:る):もともと静岡県出身なんですけど高校生のころは中国の武漢に住んでいて、東京の文化に憧れがあったから日本に戻りたいと思ってて。アメブロを通して自分のファッションを発信して、みんなのファッションも取り入れて……っていうのを続けていたら日本でモデル業をやってみないかと声をかけられたんですよね。はじめは全部フリーランスとしてやっていたんですけど、仕事の量が増えたから事務所に入って本格的に活動することにしました。19歳のとき東京に来てからもう7年以上経つかな。

大社カリン(以下:カ):中学までは普通の公立に通ってたんですけど、そのころから美大に行きたかったので高校受験で美術の学校に進学して。ただそのとき校則的にバイト禁止だったからサロンモデルや読者モデルをやりはじめた、というのが美術の世界とモデルの世界に足を突っ込むようになったきっかけです。大学生のころに初めて絵の個展をしました。モデル活動については個人でやるより会社を挟んだ方が大きいクライアントからも安心や信頼を得られると思ったので事務所に入ってみたんですが、モデル専門の事務所というわけではなくクリエイターや個人としての事務的な活動をサポートしてくれる場所に属してます。なのでそんなに昔からやってることは変わらないですね。去年は呼んでもらっていたオーストリアのアートフェアがコロナで中止になっちゃったりしたんですが、今年は気持ちを切り替えてもっと絵に力を入れたいと思ってます。

Niina(以下:N):私は母がアーティストをやっていたので、それに憧れて漠然と歌をやりたい気持ちがずっとあって。14歳くらいのとき、学校へ通いながら3ピースのテクノロックバンドでボーカルをはじめたんですけど、当時はまだ若くてテクノもロックもわからなかったから、やりたくないってなって(笑)。そこからソロ活動をするようになったんですが、自分の所属した会社が女優に強いところだったので、そっちの方に活動をシフトしていった感じです。高校1年生のときに初めて映画に出ることがオーディションで決まって、主演という機会を頂けて。そこから本格的にお芝居をやってみようと思いはじめたかな。転機になったのは22歳のころ、今の彼(JP THE WAVY)に出会って、HIP HOPに出会って。音楽はずっと好きだったけど何かひとつのジャンルに没頭したり、自分で生み出したいと思ったのは初めてで。今は自分自身の音楽活動でもHIP HOPに挑戦したりしてます。私の場合は事務所とは契約してなくて全くのフリー。彼の事務所の人たちにサポートしてもらったり、仲介者の方達から頂くご縁で仕事をしてます。

——3人の出会いは?

:もう1人仲のいい共通の友達がいて、彼女を含めた4人がそれぞれを紹介し合ってるうちに、いつの間にか自然と仲良くなってたからハッキリとした出会いのきっかけは思い出せないですね。ただやっぱり18〜19歳くらいのころにたくさんの人たちと出会ったけど、そのあともプライベートで遊んだりする人たちってここくらい。

N:私はずっと八王子から通いで仕事してたんだけど、帰れなくてみんなの家を転々と泊まりながら生活してて。それが仲良くなった理由かも。逆に、うちの実家にみんなが泊まりに来たこともあったな。

:「遠い〜!」とか言いながら八王子行ったね(笑)。確かにお泊まりの仕事が多かったのが仲良くなった理由かもね。今いるみんながどう揃ったかはふんわりし過ぎててよく思い出せないけど(笑)。でも確か、InstagramでNiinaを見て可愛いって思って、ダイレクトメッセージを送ったのが最初の絡みだったとは思う。私はInstagramでアクション起こすタイプだから、可愛い子にはすぐメッセージ送っちゃうんだ(笑)。そこから一緒に遊ぼうよって話に膨らんで、そこから今に至ってるんじゃなかったっけ。たぶん。

——3人はある種の戦友的な存在だと思うんですが、やはり互いに刺激を受け高め合って来た印象はありますか?

:出会った当初から若いなりに熱い話をしてたと思うし、ジャンルは違っても目の前で目標に向かって何かを実現していく友人を見て、自分も「やばい、やらなきゃ!」って思えました。

N:お互いに説教とかもよくあるし(笑)。愛しかないんですけど。

——何かを発信している人達同士で自然と惹かれ、励まし合ってきたんですね。

N:そういう長く培ってきた信頼や愛情があるから、今でもそれぞれにもってるコミュニティやコネクションを共有し合いたいなと思える間柄なんじゃないかな。

:結構本当にサバイバルしてきたから、その感覚を共有できる友達はこれから先も本当に大事だと思う。

:それぞれ特に共通の趣味とかもないけど友情があるのは、そこだよね。

N:趣味や見た目や、やってることが違うからといって友達になれないなんてことはなくって、それぞれに芯があれば分かり合える。こんなに毛並みは違うけど家族みたいに仲が良いって、凄くいい事だよね。

:考え方やモノの見方が違って意見をぶつけ合ったとしても険悪になることはなくて、むしろ凄く居心地がいい。何かあったらすぐ連絡してほしいし、助けたいって思う。

——同年代の横の繋がりを大切にするというのは、スラッシャー的生き方を実現するひとつのポイントですね。一方で、より大きな仕事を取ったり活動の幅を広げてこれた理由として、やはり自己プロデュースや能動的なアクションの部分も大きいと思いますか?

:そうですね、これは本人のやりたいことや所属先の特徴でそれぞれですけど、私の場合は事務所がプッシュして営業回ってくれるとかはなくて。一度撮影してくれたカメラマンさんやライターさんが気に入ってくれて、Instagramで私のアカウントを探してまた声をかけてくれたり、ということが多いです。

:私の場合は中国で仕事をしたいと思った時があって、その時はコンポジット(編註:プロフィール資料、ポートフォリオ)を持って自分の足で中国を回りました。でも日本で広告の仕事をする時は、事務所から貰う仕事とオーディションで取る仕事、そしてInstagramで直接問い合わせを貰う場合が多いです。

——Instagramを窓口にした問い合わせが一番多いですか?

:私はInstagramをコンポジとして使っているので、これを見れば何をしてるかわかるようになってて。そこから問い合わせが来ることがほとんどかな。

:作品についてもそうですね。自分がどういう絵を描く人間か公表していないと実態が見えないので。アートフェアへの出展やお店とのコラボ依頼もInstagramが窓口になることが多いです。

N:昔はコンポジ持っていってたけど、今はインスタ見たほうが早いってなってるよね。

:世界観として伝わりやすい。

:もちろんオーディションにはコンポジ持っていくし、長い事この仕事してるから大手は私の資料も持ってて下さっているのでそこから広がる話もあるけど、全く新しい経路から来る仕事っていうのはInstagramからが多いですね。

——器用に色々な事ができる分、自分の肩書きをこれだって言い切る事ができない不便さもありませんか?

:客観的に見られてる自分が、その時の自分なんだと思います。今周りから私はモデルと見られてて、別にアーティストではないし、服をつくる人だと思われてるわけでもないから、肩書きはモデルになるのかなって思います。Niinaとカリンはやってる事の幅が広いから私の場合とは違うけど。2人とも私から見るとアーティストじゃないかな。Niinaは女優だったこともあったけど。でも肩書きなんて、あったら楽かもしれないけど本当は必要ないと思う。わかりやすい肩書きなんかあってもつまんねーなって思います(笑)

N:自分のやってることは一言じゃ収まらないから、最近のインスタのプロフィールにはNiinaとしか書いてないです。ファンにはわかりづらいスパルタなことしてるかもしれませんけど(笑)。色々やってることから察して欲しい、私は私としか言いようがない(笑)。

:難しいなと思うのは、仕事を受けるとき、肩書きがはっきりしないとクライアントとか年上世代の人達からは「どういう子なの結局?」と思われることかな。だから確かに時代的にも自己プロデュースは大事なトピックだと思うんですけど、ただ結局のところは自分のブランド価値というものは他人が決めることなのかなと思ってます。自分自身の活動の幅を定義しすぎてしまうと身動きが取れなくなっちゃうんで、クライアントとの1対1でのコミュニケーションの中で自分をより深掘りして知ってもらうのが大事かな。やってること一つひとつに自信があるからこそ、柔軟である必要はあると思います。

:できることとやりたいことは違って、できることを聞かれる方が楽だなと思う。だってやりたいことは死ぬほどあるから。

N:キリねーよ(笑)。

——現在と10年前とで周囲の状況は変わってますか?

N:時代が追いついてきた感じはするかな。ひと昔前は”芸能”か”サロモ”か、みたくガチガチな線引きがあったけど。サロモは素人、みたいな扱いね。

:「何年やってんの?」みたいなこと聞かれたり。サロモでもモデルはモデルだし、かっこよければなんだっていいじゃんって思ってた。でもあのころのクライアントって、信用できる会社に所属してキャリアのある”プロ”にはお金を出して、その辺の子拾って来たのがサロモだとか思われてて。私もモデル活動はサロモが入りだったから悔しかった。

:私もサロモから入ったよ。”読者モデル”って括りが凄いあったね(笑)。

:ちょうど時代の変革の荒波のなかにいた感じだね(笑)。

N:今はインスタから直接良い仕事の話が来ることもあるし、昔より夢があると思うな。

:アウトプットした表現を見てくれる場が用意されている時代だから、映像の勉強を1年しただけでめちゃくちゃ跳ねる作品をつくれるクリエイターとかもいるし。それは5〜6年前ではなかなかなかったことだと思います。凝り固まった重鎮だけがいる世界で、下から押し上がってくる力を脅威とも思ってなかったんでしょうけど、今はそれをひっくり返せる面白い時代になったなと感じます。だから柔軟でありたいし、自分たちも変化しながら生きてきたぶん”スラッシャー”って言葉は合ってるなと思います。肩書きをひとつに絞る必要はないと思います。

:自分の出来ること、出来そうなことをどんどんやるべき。そこからやりたいことを見つけるべき。それを止める人は今いなくなってきていて、生きやすくなってきたと思う。一方でそういう人が増えてきたからこそ、より突出した何かを持つ必要性も上がってはいるね。

N:新しいことをするには結果で周囲を納得させていく必要がある。自分のスタイルは、かたちにして証明していかないと。

:とにかく何でもやる、やるしかないんだよ。キャリアとかじゃなくて結果が重要。

——今の生き方を続けていく上でなくなると困るツールはありますか?

:インスタ。むしろインスタだけあればいい。

N:そうだね。

——みんなはある意味Instagramを使った発信のプロだと思うんですが、コツとかはあるんですか?

:頑張りすぎないこと。私は仕事でやってるし、私のコンポジットだからこそ晒け出さないといけないから、嘘をついたり見栄をはったりはしません。テクニック的な側面だけでいえば、ひとつの画像を分割して投稿するとかはしたけど。でも今はそんな工夫いらなくて、むしろ自然な、もしかしたら会えるかもしれない、その人になれるかもしれない、って感じてもらえるくらい身近な存在であることが大事なんじゃないかな。

N:今はTikTokとかに投稿してる可愛い高校生が、マジで可愛いし(笑)。それだけで何万再生もされる訳だし、無理する必要はないと思う。本人に軸があればInstagramとかも自然と世界観が出来上がってくる。ただ、本来SNSは楽しいものであって欲しくて。例えば病んでるときにそういう雰囲気をそのまま出した方が応援してもらえるってこともあるかもしれないけど、私の場合はいつも皆でいいねを押し合える投稿にできるよう心がけてるかな。

——どんな生き方をしていても、誰にでも将来や現在に不安を感じる事はあると思うんですが、みんなの場合はそういうとき、どうしますか?

N:今いる2人とか、仲間と話しますね。

:やってることが違うっていうのもあって話しやすいのかも。

N:確かに違うんだけど、何かをつくってインスタで発信して、仕事にするっていうプロセスは共通してるからお互いわかり合えるんだと思う。難しい問題だったとしても重たい空気になることはなくて、一緒に笑って相談できる。

——今やってることを辞めたいと思ったことは?

:ある。

:ない。

N:全てではなく、なにかを辞めたいと思ったことはある。女優とか(笑)。

:この2人はどんどん自分をアップデートして変化していくタイプ。でも私は一生同じ、このままなんですよ。やること一生同じで、それでだけで回ってる(笑)。だから、そういう意味で一回リセットしてみたいって思うことはありましたね。でも辞める必要がないって思って、辞めなかった。私にはもうこれしかない。

N:るうこはクリエイティブなんだけど、職人気質だからな(笑)。ブレないし、仕事を仕事として割り切ることができるタイプ。私とカリンは後先考えずに動くから、何かヤバいってなったらその度に一緒に話しあってきたね(笑)。3人共通してるのは、それぞれにそういう生き方しかできないってのがあるところかな、ある程度捨て身だよねみんな(笑)。

時代の波に乗って柔軟に変化、進化を続け、SNSを駆使した今までにない働き方で自らの人生を切り拓いてきた3人。自由で幅の広い経歴は華やかであると同時に、自分のアイデンティティやスタイルを探り、確かめてきた歴史でもあった。悩んだり立ち止まりそうになったときも、仲間がいればだいたい笑って乗り切れる。とにかくそのとき出来る何かをやってみて、自然体のまま発信し続ければ、それで生きていくことも、認められることも出来る。戦い、挑戦し続けてきた全ての点と点が繋がり、唯一無二となった彼女達の現在地がそれを証明している。誰しもがスラッシャー的な生き方をすべきだという話ではないが、より一層社会が変化していくであろう2020年代、柔軟な活動や自己進化、そして己の軸を確認し続けるという行為は、多くの人々や企業にとっても必ず求められるときが来るはずだ。既に来ているといってもいいだろう。先を行く彼女達の背中から学ぶものは多く、これからも目を離せない。


Text: TETSUTARO SAIJO
Photo: VICTOR NOMOTO