アートコレクティブの「チームラボ」が手がけた最新の展覧会である「チームラボ&TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木」。会場は六本木ヒルズのほど近く、バーの跡地にそびえ建った1階建ての巨大テントだ。都会のど真ん中で無限に広がる身体感覚を獲得し、自然の法則を超えたアートとの一体化ができるという。
サウナ、冷水、そして外気浴ならぬ“アート浴”を繰り返すことによって導くことができる最高の状態は、自分でも気付かなかった感性を呼び起こす可能性を秘めている。今回は展示を制作したチームラボが推奨する、サウナ~アート浴を3セット繰り返す計100分を体験した。
『チームラボ & TikTok, チームラボリコネクト:アートとサウナ 六本木』
[会期]
2021年3月22日(月)~ 8月31日(火)※不定休
10:00~23:00(最終入館 21:30)
※ 3月22日(月)~4月23日(金)の平日は12:00~23:00(最終入館 21:30)
[会場]
東京都港区六本木5丁目10-25
[チケット料金]
平日:4,800円/土日祝・特定日:5,800円
※ 全年齢共通(安全管理上、0~11歳のお子様のご利用は出来ません)
#INSIGHTS OF EVELA
1:香り・音などもプラスされた本格的なサウナと、作品と一体となった新しい冷水浴が東京の街中で楽しめる
2:自分を最高の状態(ととのった状態)に導くことによって、アートが一層心身に浸透してくるという新しい体験ができる
3:チームラボの新たなアートプロジェクト「Supernature Phenomenon」をテーマにした新しい作品が鑑賞できる
建物に入ると、まずはブースで展示の説明を受け、水着や館内着、タオルなどのアイテムをゲットする。会場では一式が借りられるので、手ぶらでもOK。お気に入りの水着で体験したければ、自前のものを持ち込んでもいい。着替えが終わったら、薄暗い空間に光が降り注ぐ待ち合わせスペースへ。1つ目の作品「呼応するランプのアレイとスパイラル‐ワンストローク, Metropolis Tokyo」が待ち受ける。下を通ったり、サウナ室に出入りしたりすると、ランプの色が変化し、人の動き回る様子を体現する。
ランプにいざなわれるようにサウナ室へと入ったら、1回目の発汗タイム。サウナは全7室を備えており、それぞれ異なる温度・湿度、香り、音楽が楽しめる。「Fire Red」のサウナ室は、90度。炎をイメージした音が流れ、ほうじ茶の香ばしい香りが漂う。このほうじ茶はお茶で有名な佐賀県・嬉野で生まれた茶葉ブランド「EN TEA」がサウナ用に配合・焙煎したもの。
サウナ室で汗を流す時間は、5~10分がひとつの目安。サウナ、冷水、休憩(アート浴)を3セット行なうのがおすすめの“ととのい方”だという。サウナと冷水で身体を活発にさせた後、休憩で一気に副交感神経優位の状態へ。この時、本来は交感神経優位時に放出されるアドレナリンなどの効果が持続しており、リラックスしながらも頭は冴えるという、通常では体験できない状態に身体を持っていくことができると医学的にも証明されている。
サウナの嗜みのひとつである“ロウリュ”。スタッフが熱したサウナストーンに水をかけると、サウナ室の温度と湿度が一気に上昇する。昔々の人々も、蒸し風呂、つまりロウリュサウナのようなものを楽しんでいたという。「ふぅ~」と思わず呼吸の深くなるような熱い風を浴びながら、時代が流れても変わらない人間の探求心に思いを馳せる。
サウナの後には水分補給が必須。館内に飲食物を持ち込めない代わりに、常温と冷水から選べるチャージスポットが。毒素を排出して乾ききった身体に新鮮な水を流し込むと、身体の中心から手足の先まで気持ちよく浸透していくのが感じられる。
冷水は水風呂ではなく、シャワーで浴びる。シャワーブースへ行くと、ミストに映像を投影した作品「円相に迷い込んで」がお出迎え。空間には円が描かれたり、蝶の群れが飛び回ったり。作品の中に飛び入って色鮮やかな蝶に触れれば、たちまち死んで落ちていく。生死の境目を目撃した感覚が、シャワーを浴びる前の火照った身体をわずかに冷ます。
待ち受ける冷たさへの恐怖心と闘いながら、勢いよく流れ落ちる水へと身体を預ける。皮膚が驚きで縮みあがっているような状態も、1分耐えれば無の境地へ。身体の境界線があやふやになり水とつながったような錯覚に陥る。
冷水を1~2分浴びきったら、いよいよ初めてのアート浴。温冷交代浴によって格別の状態になった身体で、作品空間にそっと踏み込む。「降り注ぐ雨の中で増殖する無量の生命 - A Whole Year per Year」では、季節の花が無限に咲いては散ってを繰り返す。寒菊の花(取材時は3月)の生死をベンチに腰かけながらぼーっと眺める。鏡面素材を使った床にも花々が映り込み、まるで花畑のよう。ここは天国なのかも…

可憐に咲く花々は、リアルタイムで生きて死に続ける。あらかじめ記録された映像を再生しているわけではないため、同じ瞬間を目撃することは二度とできないのだ。もう決して訪れることのない過去、そしてまだ見たことのない未来のあいだにぽつんと存在していると、立ち止まれない時の無情さと力強さを否が応にも感じることになる。
2ラウンド目のサウナは「Water Harp Cyan」で。温度は80度、ロウリュは多め。水琴窟の音色が流れ白樺の香りが漂う室内は、その色もあいまって他の部屋より幾分か涼しげに思えた。それでも、1回目よりも噴き出す汗の量は多い。さらさらとした水の粒が、身体をコロコロ滑っていく様子を眺めながら耐える。
少し慣れてきた2回目の冷水。シャワーはオーバーヘッドと肩口から水のかかる2種類が用意されているので、頭から思いっきりかぶることもできるし、髪を濡らさずに水を浴びることもできる。シャワーの水は季節によって温度が変わらないよう、チラーを導入し温度を保っているのだという。
2つ目の作品は「空中浮揚」。空中で止まったり上昇下降したりして、ふわふわ浮いているこの球体。ある時に軌道から外れるとコロっと地面に落ちてしまう。そして地面に落ちると、また浮こうと頑張る。そこにはエネルギーの秩序があり、非生命物体なのに、まるで生きているかのようだ。この作品には超自然現象に興味を持ったチームラボの「生命と非生命の間の曖昧な作品をつくりたい」という思いが込められている。
上昇すると赤に、下降すると青になる。身体が特異になった状態でその様子をずっと眺めていると、真っ黒なキャンバスの上に丸が描かれた二次元的なものに見える瞬間がある。非生命なのに生命、三次元なのに二次元……。ここでは自分が持っている固定観念は通用しないようだ。日常とは違う開放感にふわりと包まれる。
いよいよ迎えた最後のサウナタイム。時間が経つのがとても早く感じる。ちなみにサウナの入り口には、混雑状態やサウナのスペック(温度・ロウリュ有無・音・香りなど)を確認できるモニターがある。密を避けながら、自分好みのサウナを見つけよう。女性専用サウナも2室完備している。
サウナ室に使われているのは、人間の脳からアルファ波を放出させるともいわれている檜の木。永久的な施設ではないなかでも、本格的にあつらえられているのだから贅沢だ。最後に選んだサウナ室は女性専用の「Static Pink」。シナモンとジンジャーの甘い香りが鼻腔をくすぐる。
冷水エリアは全部で2つあり、こちらでは「円相を通り抜けて」という作品に没入できる。水しぶきの中を進んでいくと、ある瞬間に自分の周りに虹の正円が。水と光の角度が紡ぎ出す七色は、自分だけが見ることのできる秘められた楽しみ。円相とは禅における書画のひとつで、悟りや真理、宇宙全体、平等性を象徴的に表したものだという。
最後に浴びる作品は「生命は結晶化した儚い光」。キラキラした光の結晶が自身も伸びたり縮んだりしながら、上昇下降を繰り返す。流れ続けるエネルギーが宇宙のように感じられる、壮大な作品だ。生命の奇跡とその儚さに、感傷的な気分になる。
作品の中へと入っていくこともできる。触ると光が壊れて、触った時の光の色に空間が染められていく。後ろからぼーっと眺めるもよし、中に入って没入するのもよし。自分なりの気持ちよくなれるポイントを探すのがおすすめだ。
こうして、100分の体験は終了した。順番や時間は決められているわけではないので、実際は自由に館内を回ることができる。更衣室には温水シャワーやシャンプー、リンスなども完備しており、体験の後はスーパー銭湯ばりに身支度を整えて帰ることも可能だ。
サウナに入っている時、冷水を浴びている時、「もうだめだ」と何度も思った。そしてそれを超えると、不思議と自分の境界線が曖昧になっていき、自分が存在していることにはっと気付くような瞬間があった。それは凝り固まった自分の殻を忘れかけ、魂が表に溶けだした瞬間だったのかもしれない。そんな状態でアートを“浴びる”と、宙に浮かぶ無数の星と同じ目線になったみたいな感覚に陥り、時間や空間を超えた場所へ連れて行ってもらえたような気がした。こんな気分、宇宙へ行った時とか死に際なんかじゃないと味わえないんじゃないか。実際にそんなことにならなくても、自分の魂と“リコネクト”できる装置をつくってしまうなんてすごい。アートの可能性と人間の知恵にひれ伏しながら、六本木を後にした。
Photo: VICTOR NOMOTO
Text: RIO HOMMA