2021年ってどうなるの? EVELA編集部員が、個人的な興味関心にしたがって今年について考えてみた。それぞれの視点から捉えた、ムーブメントのうねりに注目!

「お酒は敵か、味方か。」(矢代真也・EVELA編集部 副編集長)

ニューヨークで2021年にブームとなりそうな、カクテルのデリバリーサービス「Ghost Bar」。ジュースのスムージーのように新鮮な素材がミックスされたペットボトルが自宅まで届く。image from ghostbar.us

「酒は人類にとって最大の敵かもしれない。だが聖書はこう言っている、『汝の敵を愛せよ』と」。COVID-19による2回目の緊急事態宣言下、20時にすべての飲み屋が閉まる現在の状況をみていると、フランク・シナトラの(ものとされる)こんな名言を思いだす。現在の状況下では、飛沫感染を誘発するアルコールはまさに人類の敵だ。

ただ外での飲酒が減る一方で、「宅飲み」には一大ブームが訪れている。国が発表する『家計調査』では、2020年7~9月期の2人以上の勤労者世帯で、酒の支出は前年から18%増になっている。アメリカでも、ミレニアル世代で同様の傾向がみられたという。ウーバーイーツのように、自宅までカクテルを届けてくれる「Ghost Bar」というニューヨークのサービスが今年の年初に話題になったし、日本でも全国のスナックママとつながれる「オンラインスナック横丁」に人が集まっているらしい。今後もお酒という「敵」を、家に招き入れる文化は伸びていくだろう。

また、2020年にアメリカで大ブームになったのが、「ハードセルツァー」と呼ばれる飲み物だ。「アルコール入り炭酸水」といった意味をもつこのドリンクは、サトウキビを原料に発酵させたアルコール炭酸水に、フレーバーとして様々な果物を投入したお酒。ビールなどよりもカロリーが低いことから、健康指向の人々に受けているという。クラフトビールで有名なBrewDogも製造をはじめ、日本でもインディペンデントなメーカーが生まれはじめている。健康指向のチューハイといっていい、これらのドリンクは2021年に日本でもブームになるかもしれない。

ただ、どんなにおいしくて健康的なアルコールが手に入ったとしても、自宅での飲み会に限界を感じてしまうのは、そこで起きる「アクシデント」が予想内のものに限られてしまうからだ。それは、日常化した緊急事態という非日常への癒やしでしかない。そんな酒は、「敵」ではない。イベントで人のつながりを生み、新しいうねりをつくるためには、どうしてもリアルな空間が必要になる。ドイツでは、2021年のオクトーバーフェス開催に向けて、ポスターのコンペが開始されている。お酒という「敵」と、もう一度正面から向き合う日が来ることを願ってやまない。

「シン・エヴァ早く観たい」(西條鉄太郎・EVELA編集部 編集長)
エヴァ

2021年、最高に楽しみなイベントはもちろん『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開だ。ファンであればご存知の通り、本来1月23日公開予定だったこの映画もコロナ禍の影響で残念ながら延期となってしまった。だがそもそも既に前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』から8年以上も待たされている。葛城ミサトと同じ1986年生まれの自分も、なんともうとっくに劇中の"ミサトさん"より歳上になってしまった(旧作テレビシリーズを初めて観たのは小学生の頃である…)。もう時間感覚が麻痺してしまっていて、なんならあと1、2年延びると言われてもさして戸惑いはない。X JAPANのライブでYOSHIKIの登場に何時間も待たさせるのより、体感としては短い。とはいえまあ、なるはや観たいけど。

エヴァに限らず今年はロボットアニメ映画が豊作だ。『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』、『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!!』、『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』、『シドニアの騎士 あいつむぐほし』。さらにややジャンル違いだが『シン・ウルトラマン』も公開予定である。これには嬉しい反面、大変なプレッシャーを感じさせられている。おうち時間を全て使って、劇場で新作を観る前にこれらの旧シリーズを全て復習せねばならないからだ。

オタクの背に課せられた十字架は重い。責務。西野カナの言う「会いたくて震える」の意味が少し分かった気がする。来たるべき未来の事象に対し、あれこれストイックに備え過ぎようとして生じる、遠足前夜の眠れなさにも似た、期待と不安がない混ぜになった心身状態なのである。実際自分もこの原稿を書きながら震えている。

実はこういったアニメ映画の劇場公開という催しは、今後のイベントビジネス全体に対して大きなヒントになると思っている。2021年1月現在からしばらくは、各種サブカルチャーファン層に対し、ハイコンテクストでマニアックな中規模イベントを数打つ手法が有効だと筆者は考えているからだ。コロナ禍で劇場への入場制限をしているにも関わらず、記録的な興行収入を伸ばしている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』も示唆的な現象だ。これもテレビシリーズを観るかコミックスを読んでいなければ前段の物語がわからない、ハイコンテクストと言えるコンテンツである。2度目の緊急事態宣言下にある現状、COVID-19以前の世界のように不特定多数へ向けたわかりやすくて大規模なイベントを催すことはまだしばらくできない。したとしても誰もリスクを負ってまで足を運びたいという情熱——愛——は持ち得ないだろう。

誤解しないで頂きたいのは、"エヴァ"や"鬼滅"のような人気のあるIPを神輿に担いだアニメイベントを乱発すべきだという話ではない。ハイコンテクストを共有した当事者意識の高いファンコミュニティが醸成される器として、イベントもローンチ前から"時間をかけ育てる"必要があるということだ。言い換えると、イベントをつくる過程や前段を共有する体験を提供し、イベント内に独自のカルチャーが生まれる仕掛けをつくらないといけないのだ。

具体的にどうすべきかは、イベンターと編集部による鼎談記事を是非読んで欲しい。筆者と異なる角度からではあるが、大枠としては参加した皆さんも似たようなことを語っているのが興味深いし、"Fes2.0"という概念についても語られていて、現在の状況下でもイベントをするのを諦めたくないクリエイターには有益なヒントになるのではないだろうか。

"サブカル"がハイコンテクストを強いられてよくわからない、つまらないと感じる人はEVELAの読者には少ないと思うが、いたとしたらあなたは勉強不足だ。時代のうねりについていくため、2021年もEVELAを読んで私たちと一緒に学び、まだ見ぬ熱狂を発見していこう。[/vc_column_text]

「パンデミックとの対峙が音楽にもたらすもの」(宮原柾・EVELA編集部)


英国のバンドSquidが2021年5月にリリースするアルバム『BRIGHT GREEN FIELD』は架空の都市がテーマ。いまやディストピア化した都市のあり方を問いかける。先行シングルのMVでは仮想世界と現実世界、そして彼らの演奏が融合する。

2020年、COVID-19の影響で行動が制限された中、音楽は様々な人に束の間の安らぎと非日常をもたらしたのではないだろうか。

2020年はCOVID-19によるイレギュラーな状況にも関わらず、コンセプチュアルに読み解いていく楽曲から、コラボレーションから生まれたシナジーを体感できる楽曲、電子音がポップを拡張していく楽曲など、音楽という広いスペクトルのさまざまなエリアから楽曲がリリースされた1年となっている。HAIM、Fontaines D.C.、などバンドシーンからの新作アルバム、エレクトロニックミュージックのシーンからは、Oneohtrix Ponit Never、Arca、The Avalanchesなどその他のジャンルにおいても多くのアーティストがアルバムをリリースした。思わず体を揺らしたくなるようなポップやエレクトロニックミュージック、世界観に引きずり込まれてしまうようなジャズにロック。個人的には、感情を大きく動かされる経験はいつも音楽からくるものだった。そして2020年の、パンデミックによってどこか間延びした時間の中に、新鮮な空気をもたらしてくれたのも喜怒哀楽を超えた感情を想起させてくれる音楽だったのだ。

同時に、2020年はライブイベントがこれまでにない打撃を受けた1年でもある。3密を避けなければならない状況は音楽ライブとは相容れず、大型フェスからライブハウスでのイベントなど様々な規模で影響が見られた。実際にライブイベントができない状況によって、音楽を届けるための異なる形の模索もなされた。

YouTubeのNPR Musicの名物企画であるTiny Desk ConcertはTiny Desk (Home) Concertとして継続され、Boiler RoomはStreaming from Isolationと題してアーティストが自宅からライブセットをする様子をリスナーに届けた。また、フェスやライブハウスの単位でも、ライブ配信などの形でそれぞれのビジョンを届ける模索が行われた。さらには、アーティスト個人としてのオンライン上の発信が活発化した1年でもあった。インスタグラムライブなどを用いたアーティストの個人的な配信は、パーソナルな空間を共有しているかのような、コメント欄を含めた一体感を持っていた。動画、ライブの配信プラットフォームを用いた音楽の発信は今後更に多様化し、様々な音楽関連のコンテンツがアーカイブされていくのではないだろうか。

また、音楽の時代を反映した表現としての側面からは、COVID-19という未曾有のパンデミックと対峙したアーティストが、今後どのような楽曲を発表するのかということには関心が高まる。例えば、2020年4月の緊急事態宣言直前に公開された折坂悠太による楽曲「トーチ」は、人が外出しなくなり、豹変した街の空気を見事に内包し、表現した楽曲となっていた。

直接的ではなくとも、それぞれのアーティストが体験したパンデミックという状況は何らかの形で作品に影響を及ぼすだろう。パンデミックを機会に、より深く人の存在を考え直すような内省的な楽曲や、活動が制限された反動による外に向けたポップな楽曲、ディストピアとしての社会を表現するような楽曲など、音楽を通して多様な視点が感じられるようになるのではないだろうか。

イギリスのポストパンクバンド、SquidがWarpからのリリース予定を発表したことや、FKA Twigsが自粛期間中にアルバムを1つ仕上げていると発言したことなど、2021年も新作が豊作となりそうな予感が漂っている。生の音を共に楽しめる日を待ちつつ、これからの音楽の形と新たな楽曲リリースに期待が高まる、そんな2020年にも増して音楽が充実した2021年になるのではないだろうか。

音楽はたとえ空間の共有が不可能だとしても、人がそこに内包された熱量を通じて繋がるすべを示してくれる。パンデミックという状況の中でも前を向き続けるために、音楽が宿した時代の熱量を我々は忘れないでいきたい。

「ぷかりぷかり、ぬいぐるみと。」(本間理央・EVELA編集部 シニアエディター)


ぬいぐるみ「くまきち」が2020年4月にリリースした「眠れない TO NIGHT」のMV。

2020年、人と人は断絶された。会うことを許されず、“孤独”を忘れさせてくれる時間が減った。この状況に比例するように昨年7月より5か月連続で自殺者は増加しており、自民党の若手有志は「孤独対策」をも提言しているという。人間が孤独であること——自分以外の他の誰とも本質的に交わることができないと感じること——は本来健全な真実で、自分が自分であることは清々しいほどに愛なんだけれど、一瞬でも幻想的に他者と繋がる経験を持ったたくさんの人々にとってそれは苦しくて寂しい闘いだ。

EVELAでインタビューをした俳人の小島なおさんも「自分がここにあることはすごく寂しい」とおっしゃっていたし、そのいびつな感じが人間臭さでもある。今に佇み、自分を自分に招き入れる。パラドックスに囲まれた人間生活のなか、私たちは武器をとって、“最強の孤独”を手に入れなければならない。

ふと横を見ると向かいの家にまだついている窓の明かりと、ふちに置かれたウィスキーボトル。平行する世界たちを繋ぐ梁が折れてしまっても、とりあえずいま、待ち合わせの気配を確認することができた……。けれどこんな儚げで不確かな偶然に頼っていても始まらないということだ。

2021年、孤独を駆け抜ける武器として、ぬいぐるみをお迎えしてみてはどうだろう。なぜならぬいぐるみは、生き物みたいな格好をしているくせに、時を携えず何にでも変容しうる存在だからだ。今現在にいられず不安をこしらえるあなたや私の前で、ぬいぐるみは今日も明日も同じ姿のまま、ただそこにいる。

あなたや私がノスタルジーに溺れ死にかけても、秘密の掟を破って未来を覗こうとしてしまっても。ふと、時が無になる様子を披露したあとで、きっと迎えに来てくれるだろう。それにぬいぐるみは、ばらばらになった自分の欠片になってもくれる。ひとりぼっちだったはずのあなたや私と溶け合って、いずれひとつになってあなたや私を抱きしめてくれるはずだ!

どんなぬいぐるみをそばに置こうか。「くまきち」や「ドールズサン」のぬいぐるみが頭に浮かぶ。どちらも愛らしさのなかに狂気が散りばめられているところが魅力的だ。洞穴のような目でこちらを見ているのを想像すると、勝手にぬいぐるみのタフさを尊んで、自分が孤独であることなんて一瞬忘れてしまいそうな気さえする。不本意にも孤独と顔を合わせることになったこれからの世界。ぬいぐるみと一緒になって今に浮かんでみるのも悪くなさそうだ。