街を駆け、繋がりを築く、新たなデリバリーの形
街での最小単位の物の配達を自転車と身一つで担う、バイクメッセンジャーという職業がある。COVID-19の影響を強く受けた彼らは、メッセンジャー文化の存続のために営業形態の変化を迫られている。そんな中、飲食業界のデリバリーサービスの需要に着目し、一部のメッセンジャー達が立ち上げたのが20 Courier Food Service(以下、20 Courier)だ。個人飲食店やオンラインイベントと提携し、独自の付加価値を持ったデリバリーサービスを提供する。20 Courierの可能性とメッセンジャー文化の背景を探るべく、代表のTeo、メンバーのTora、Tohgoの3名に話を伺った。
インタビューを行ったのは数人のメッセンジャーがシェアハウスをする、通称メスハウス。ここに出入りする彼らはお互い気心の知れた、リスペクトしあう仲間だからこその距離感と空気感を持っていた。
個人には馴染みの薄いバイクメッセンジャーという仕事だが、彼らの普段の業務は企業のオフィスなどから物を運搬することだ。メッセンジャーを雇っている企業が10社ほどあり、それぞれが所属する会社から、クライアントの依頼を受けている。
「基本的には、急ぎで今から1時間以内に運ばなければいけないような書類や、印鑑の必要な書類、撮影に使う衣装などを運んでいます。都内であればバイク便よりも早く届けられるので、そういった依頼が多いですね。7キロ以内であれば自転車の方が速いと言われています(Teo)」
今まで書類などを主に運んできたメッセンジャーの彼らが、20 Courierを始めるきっかけ。そこにはペーパーレス化する社会と昨今のCOVID-19の影響が大きく絡んでいる。
「今まで僕らの運んできた、いわゆるペーパーワークはいずれ無くなっていくものだと思うんです。さらにコロナで市街のオフィスが動かなくなって、仕事が激減したことで、メッセンジャーという仕事の終わりの始まりが見えてしまって。僕は何年も続けてきて生活の一部になっているメッセンジャーという仕事、文化が無くなっていくのは見たくなかった。メッセンジャーを続けていくにはやっぱり物を運ぶしかないと考えた時に、フードだったらいけるかもしれない、と考え20 Courierを立ち上げました(Teo)」
さらにメッセンジャーとしての人との繋がりが希望を持たせてくれたという。
「自転車が好きで、メッセンジャーという仕事をしていることがたまたま共通項としてあるだけで、自分のやりたいことはメンバーそれぞれが別に持っていたりするんです。例えばToraちゃんだったら、コーヒーを入れたり、各々がスキルを持っていて。そこにお互いリスペクトがあって、それぞれの人としての面白さに僕は惹かれている。20 Courierを始めようと思えたのも、個人ができることを集結すればこのプロジェクトを様々な方面から成功させられると思ったからなんです(Teo)」
左から20 Courier Food Service代表のTeo、メンバーのTohgo、Tora、Monchi、Yuji。
「信頼関係と共にデリバリーまでかっこよくパッケージングする」
メッセンジャーが持つ人間関係を大切にする姿勢は仲間に対してだけでなく、商品を受け取りに行く飲食店、また商品を受け渡す顧客にまで広がっている。人間関係がますます希薄になっていく世の中の流れの中で、20 Courierが提供するサービスの付加価値は彼らの有機的な繋がりを重んじる姿勢にある。
「僕は、運んでいる物を破損しない丁寧な仕事はもちろん、それに加えてメッセンジャー自身が人として気に入られることがこの仕事の一番の価値だと思っています。20 Courierでは、よりお店のスタッフや顧客の方に寄りそった形の運営をしたい。例えばメッセンジャーが、お店に商品をピックアップしに来る一瞬の印象がお店側のプラスになればいいなと思ってるんです。丁寧な仕事にプラスアルファで、お店との信頼関係を築くこと、接客、商品を渡す際の印象は大切にしています。なので、そういう人間関係を築いていけるお店やイベントとの連携を広げていけたらいいな、と思っています(Teo)」
「お店側も、作るまでで終わりじゃなくなってきているのが現状。コロナの影響でデリバリーが増えたことで、お客様に届けるところまでをかっこよくパッケージングして提供したい、っていう需要は増えているんですよね。メッセンジャーは街に精通しているし、見知ったメッセンジャーが商品の受け渡しに来れば、信頼があるから安心して配達を任せられる。20 Courierは、配達までをかっこよくパッケージングする、その一つの手段として使って欲しいと思っています(Tora)」
「スタイルを確立する重要性、共有される仲間意識」
メッセンジャーの人間関係を重んじる姿勢は、彼らの持つ文化から生まれるものだという。彼らの乗る自転車は、ピストバイクと呼ばるペダルと後輪の回転が連動する特殊なもので、一部で熱狂的な人気を誇っている。このピストバイクを中心に、メッセンジャーはメインストリームとは別軸の、独自の文化圏を築き上げている。個人のスタイルを磨きつつ、リスペクトを忘れないあり方がメッセンジャーの文化として根付いているのだ。
「日本の社会は右向け右、出る杭は打たれる的な思想で、皆が同じことをするじゃないですか。そこには良い面も悪い面もあって表裏一体だと思うんですけど。反対にメッセンジャーの場合は、いかに自分の個性を出していけるか、オンリーワンのスタイルを築けるかというところにしか興味がない。その上でちゃんとお互いにリスペクトがあって。メッセンジャーがそれぞれの個性を確立していて、僕はそこに魅力を感じてるんですよね。乗っている自転車も個性的で、他人がつけているパーツは、本当は自分もつけたくても意地を張ってつけないみたいなところがありますね(笑)(Tora)」
「メッセンジャーの世界大会が1年に1回開催されていて、よく海外に行ったりもするんですけど、メッセンジャーという職業が共通言語になってどこに行ってもすぐ友達になれる。自分で作ったTシャツを交換したり、泊まるところがなかったりすると気前よく家に泊めてくれたりするんですよ。普段から仕事で街を走っていても他のメッセンジャーに会うことがあって。ちょっと休憩しようよとか、仕事終わりどうするのとか、そういうやりとりが日常的にありますね。メッセンジャーは皆が友達みたいな意識があると思います(Tohgo)」
「繋がり、温かみを付加価値として提示する」
また、彼らは社会の価値観の変化を感じ取って、20 Courierの提供するサービスに可能性を見出してもいる。
「企業や個人がこれからお金を払おうと思える価値観はシフトしてきていると思うんですよね。社会で機械化や効率化が推し進められていく反面、人と人との繋がりだったり、アットホームな温かみのあるものの重要性も再確認されつつあると思うんですよ。人もその効率だけで推し量れない付加価値に対してお金を前向きに払うようになってきているので。そこの価値を提示できればメッセンジャーとしての仕事、20 Courierにも可能性があるんじゃないかなと思います(Tora)」
そんな独自の文化と、信頼関係に基づくコミュニケーションを付加価値として提示する20 Courier。立ち上げからまだ間もない彼らは、足掛かりをつくるべく精力的に活動している。
「今はテイクアウトを始めたお店に直接アタックして依頼を受けたり、知り合いから話をもらったり、そういう形で運営しています。CULPOOLというライブ配信イベントと提携してデリバリーをしたのですが、それは知り合いから話をもらって参加できたものですね。人の繋がりに助けられています。現時点では2店舗とのデリバリー提携を10人のチームで対応していて、デリバリー範囲は渋谷、世田谷区近辺がメインになっています。オーダーのシステムも、今のところはそれぞれのお店のホームページから注文する形ですが、将来的には20 Courier独自のホームページからのオーダーを受けるシステムにしたいですね。始めたばかりなので、これからどんどん実績を積んでいこうという段階です(Teo)」
お互いが補完するように言葉を選んでいた20 Courierの3人。最後に、彼らが20 Courierで成し遂げたいこと、野望を聞いてみた。
「いろんなところに住んでいる仲間がいるので、支部を増やしてデリバリー範囲を広げていくことは考えていますね。浅草に住んでいる先輩とか、小岩に友達がいたりもするので、そっちの方まで範囲を広げていけたらいいと思います。支部ごとに売り上げを競ったりするのも面白いかもしれないですね(笑)(Tohgo)」
「最終的に20 Courierで走っていることが、ちょっとしたブランドになればいいかなと思っています。例えばメンバーがそれぞれ何かを始めたりする時に、20 Courierで走っていたことが認められて人が集まったり、話題になったり。そういう一目置かれる存在になれたらいいですね。自分も含めて、皆でここから次へステップアップしていける土壌を作っていきたいです(Teo)」
インタビュー後に行った撮影には、呼びかけに応じた数人のメッセンジャーが駆けつけてくれた。和気藹々とした雰囲気で皆が笑っている、彼らはそんな空気感を常に纏っていた。
無機的な人間関係が増え、様々な分野で機械化、効率化が進行する現代社会において、メッセンジャーの持つような有機的な人間関係を大切にする文化は希少になりつつあるのではないだろうか。それと同時に、COVID-19の影響で対面のコミュニケーションの重要性や、密接な人間関係の大切さを改めて実感した人も多いことだろう。効率化を進めることは絶対悪ではないが、全てが均一化されてしまった社会はつまらない。20 Courierはメッセンジャーとしての存続を懸けて、また有機的な人間関係を築くべく人に対するリスペクトを持って、そんな社会の中に道を切り開いていくに違いない。
20 Courier Food Service
2020年春始動の、バイクメッセンジャーが手がけるフードデリバリーチーム。飲食店のキャトルやオンラインイベントのCULPOOLなどと提携を組み、飲食配達サービスを提供している。代表のTeoを始め、10名のメッセンジャーがチームに在籍し、渋谷、世田谷区周辺を主に配達の範囲として活動している。〈Instagram〉
Photo: VICTOR NOMOTO
Text: MASAKI MIYAHARA