山口県にある「山口情報芸術センター(以下、YCAM)」が開催する「未来の山口の運動会」。アイデアを出し合ってメディアテクノロジーを駆使した新しい競技を生み出す「YCAMスポーツハッカソン」とセットで、3日間のスポーツクリエーション合宿なるプログラムが毎年行われている。COVID-19が猛威を振るうなか、5回目となる今年の開催はオンラインに託された。「どんなときも文化は死なない」「ハレの日をつくる」そんなメッセージの元、見たことのない光景がたくさんの笑い声とともに繰り広げられた。陰鬱とした状況を逆手に取り、すべてを笑顔に還元した、革新的な運動会の記録。
参加者はWeb会議ツールの「ZOOM」を使って集まった。ここでMCによる進行やメンバー同士の会話が行われる。
バーチャル背景にチームカラーが使われたり、アバターで参加する人がいたりと、
早くもオンラインの特性が活かされた幕開けとなった。さらにYouTubeでの配信も。
オンラインでホワイトボードを共有できるシステム「miro」上に凝った運動会会場がつくり出され、
そこに貼られている付箋が今日の「メタ身体」となる。
各チームは音楽に合わせて自分のメタ身体を行進させ「選手入場」を行った。
次に始まったのは準備運動のための「YCAM体操」。
細部まで実際の運動会の流れに寄せた実験的な試みに、参加者の気分もますます高まる。
バーチャル背景に飲まれないよう配慮することすら楽しい。
第一種目は「タイトり」。自宅にある本のタイトルでしりとりをする競技だ。
インドア派が有利というオンライン特有の傾向が面白い。
前日、前々日のハッカソンでは約30人の運動会参加者がチームに分かれて競技についてプレゼンをし、
実際に「試す」までが行われた。開発し実践する“デベロップレイ”が生んだ、
自宅での運動会ならではの「この日仕様」の競技であることがうかがえた。
一人ひとりの趣味が連携して繋がっていく。
出す本の流れや種類に応じたボーナスポイントも用意されており、
運動会には欠かせない“チームプレー”が問われる。
第二種目は「グルグルwhat?」。家にあるアイテムを手に持ち、
何を持っているか当てられないよう10秒間グルグルと身体を回転させる。
オンラインながらどの競技にも身体を動かす要素が入っており、
心地よい疲労感を味わうことができる。
お昼休憩には、それぞれが食べているものの発表や自己紹介の時間も設けられた。
DJありがとうの選曲“ランチmix”とともに、物理的には離れていても皆でお昼を食べる。
miro上の会場でメタ身体を動かして楽しむ人も。
第三種目は「近所に謝れ!そーオーぇん合戦」。
“好きな郷土料理”や“COVID-19が収束したら行きたい場所”などの
テーマに沿ったワードを大声で叫び、そのデシベルで勝負する。
応援合戦のように声を出せば、後半戦へのモチベーションも上がる。
第四種目は「あつまれ!どうぶつのコラ」。
モノや身体のスクリーンショットをコラージュし、お題の動物を完成させる。
Twitterのアンケート投票でお題を募集し勝者を決めるなど、SNSとの連携もオンラインならではだ。
最終種目の「ハッスルマッスル」は、本格的に身体を動かす競技。
今回YCAMが開発した、振動などをカウントできる「動かしマウス」というアプリを入れたスマートフォンを
身に着けて筋トレのミッションをこなす。
競技の順番は事前のハッカソンで話し合われ、本競技は最後の力をふり絞れる大トリに決まった。
「モモアゲダッシュ」や「ロシアンツイスト」など、残った体力をすべて使い切るつもりでみな挑む。
まさしく最終種目にふさわしい競技だ。離れた場所でも一様に疲れる姿には、運動会のそれと同等の高揚感を覚える。
会場で表彰式と閉会式が行われ、初の試みとなるオンライン運動会は幕を閉じた。
スクリーンショットを使って全員の集合写真が撮影されるなど、最後まで繋がり・一体感を意識した運動会となった。
YCAMはこの運動会の知見を広めていくため、今回のイベントをうけて
オンライン運動会をつくるための資料をクリエィティブコモンズのもと公開している。
一度だけでは終わらない、そしてYCAMだけでは終わらせない……。
新しい形の運動会が未来へ拡がっていく可能性を見据えた気概が垣間見えた。
05.05.2020
第5回 未来の山口の運動会@ONLINE
全種目が世界初実施となる、超最先端のオンライン運動会。第4回目までは実際にYCAMを会場として開催されており、その取り組みは一般社団法人運動会協会の主導のもと東京や大阪、京都などにも拡がりをみせた。今年はCOVID-19の影響によりオンラインへと会場を移し、その「未来性」を増幅。開発し実践する“デベロップレイ”という制作方法を使った、3日間におよぶスポーツクリエーション合宿は、オンラインながら実際の運動会に泊まり込みで参加しているような興奮を参加者に与えた。さらに、今年の参加費は無料とし、協賛を募った。
Photo: VICTOR NOMOTO
Text: RIO HOMMA