音楽は時空を超え、リアルとヴァーチャルに虹をかける

世界中からダンスミュージックファンが集まるフェスティバル「Rainbow Disco Club」(以下、RDC)は、2020年4月中旬、3日間にわたり東伊豆クロスカントリーコースにて開催されるはずだった。しかし、Part.1に記した通りCOVID-19の影響により本来予定していた会場でのリアルイベントは中止。急遽、「somewhere under the rainbow!」 と題された12時間にわたるオンラインイベントが開催されることとなった。

[中止からオンラインイベント開催まで、主催者たちに経緯や想いを訊いたPart.1はこちら]

本番当日、4月18日(土)がやってきた。今回はライブストリーミングではなく事前収録した映像の配信なので、昼の12時から深夜0時まで滞りなく映像が流れさえすれば成功なのだが、大作のお披露目を前にして、なんとなく心のなかで正座して待った。

この日の東京は、朝から激しい雨音で目覚めるほどの土砂降り。伊豆でも低気圧の影響により大雨となった。もしリアルタイム配信であったならイベントは開催できなかったかもしれない。彼らが事前収録にした理由は、「COVID-19蔓延の予測、編集によるクオリティーの向上、そして雨天リスクを鑑みたから」とSNSでも発表していたが、見事な天候リスク回避だった。

さて、 出演するDJや主催者たちには予めインタビューをさせてもらっていた。今回は、配信の苦労や参加者の楽しみ方、今後のイベントのあり方まで、彼らのことばを交えながら、以下にレポートを残したい。

配信開始。序盤は緩やかに幸せなムードで

正午になり、いよいよ配信が始まった。トップバッターはSisi。安定感のある穏やかなプレイで心地よいスタート。続くKikiorixはアップテンポな曲で楽しい空気を演出。自宅のオーディエンスを踊らせたに違いない。

「休日のお昼に聴いてもらうと思うので、スローに始めます」(Sisi)

「久しぶりに外に出られて、リラックスしてプレイできました。でも僕らはストリーミング世代じゃないから、”魅せるDJ”のようなパフォーマンスには慣れていなくて、ちゃんと”絵”になるのか不安(笑)」(Kikiorix)

“RDCのレジデントDJであるSisi(右)とKikiorix(左)”

Kikiorixの言う”絵”とは映像にした際におけるDJプレイの見栄えのことだ。今回配信されている映像は毎年RDCを演出面で盛り上げているREALROCKDESIGNが手がけた。7台のカメラとドローンによって東伊豆クロスカントリークラブにて撮影されたもので、ステージ正面を映した単調なシーンだけでなく、天高くドローンが空撮した気持ちのいい俯瞰映像と、現地の桜が春風に揺れる風景とがオーバーラップするなど、表情ゆたかな映像に仕上げられていた。また、時折アクセントとして用いられたAR技術を利用した映像演出は、今まで見たことのないDJプレイの”絵”をつくり、オーディエンスを飽きさせなかった。

“ARを使った映像は、RDCのロゴや球体やタブレットのような鏡面モチーフが浮かび、新鮮なビジュアルに”

“ピラミッドの各辺に配置されていたARマーカー”

「コロナの影響で配信になったのは残念だけど、今回みたいなイベントを試していくうちに、良いところや悪いところが見えて、音楽業界に新しいシーンが出てくるはず」(Kikiorix)

「そもそもダンスミュージックだって、節目節目で色んな困難にぶつかって、それを乗り越えたときに変革が起きてるもんね。感染症(HIV)でディスコ世代が全部ダメになって、フランキー・ナックルズが出てきたりとか。ソウルからディスコ、ディスコからハウス……って、文化が生まれてきた。だから、この先に何が待っているか分からないけど、時代が変わって良くなることもきっとある」(Sisi)

ご機嫌な午後のはじまり。「無観客だからこそ、いつもより自由なチャレンジを楽しめた」

“おどけてカメラマンを楽しませてくれたYoshinori Hayashi(左)と、Kenji Takimi(右)”

本来、DJはフロアで踊る人々の表情や動きを見ながら選曲するものだが、今回は無観客収録のため、当然目の前にはオーディエンスがいない。つまり、フロアの空気を読み取り観客を踊らせ続けるというDJの醍醐味が感じられない一方で、自分の”好き”な音楽を自由に流せるシチュエーションでもあった。

Yoshinori Hayashiもその自由度を活かし、茶目っ気たっぷりな本人のように軽やかなプレイで、ご機嫌な午後の始まりを演出した。

「いつもは前後のつながりやバランスを凄く意識していて、時には”自分を出せなかったんじゃないか”と反省する日もある。今回は”好き”な音楽を思い切り流したい」(Yoshinori Hayashi)

続いてKenji Takimiが名盤を鳴らし各家庭のフロアを沸かせた。

「ライブではなく配信になるうえで、”残ること”は意識する。今回はトリビュートものが多いかな。亡くなってしまったけど、自分の中で影響力の大きかった人たちに敬意を込めて」(Kenji Takimi)

Kenji Takimiのパフォーマンスを楽しんでいると、高まるオーディエンスの熱量に反比例するかのように私の部屋の窓をたたく雨の音は弱まり始めた。

奇跡的に雨が上がり、虹がかかる

全国的に大雨のはずだったこの日、15時を過ぎた頃に空模様が大きく変わり、晴れ間が見えた。東京の自宅で過ごす主催者たちは奇跡を信じて、Twitterの公式アカウントで「虹を探してください」と呼びかけた。

“奇跡を信じて、虹の目撃情報を募る”

すると信じがたいことに、一番最初に送られてきたリプライは、本来なら会場だったはずの東伊豆(稲取)で虹が出たという報告だった。しかもメッセージを送ってくれたのは、いつも現地で協力してくれていた町役場の方の個人アカウントだった。そしてここから、東伊豆を皮切りに全国各地で虹が出始めたのである。

“第一報は、なんと東伊豆の役場の方からだった”

実は2019年にも虹が見えたRDC、タイムラインを追いながら配信を楽しんでいた人たちは、ツイートの通り”神懸かってるな!”と思っただろう。窓から虹を見つけた人たちからの報告でハッピーオーラ全開の自宅ディスコは、続くSauce81の美しいヴォーカルとパフォーマンスでさらに華やいだはずだ。

虹に呼応するように、映像中のパフォーマンスも希望溢れるものに

“笑顔で撮影に応じてくれたSauce81(左)とSoichi Terada(右)。松ぼっくりを拾って可愛らしいポーズを決めてくれた”

「2011年の震災の時に、”もし電気がなくなったら、今僕がやっているような音楽はできなくなるな”と思ったし、”じゃあ自分は音楽家として価値が無いのかな……”と思っちゃったんですよね。一方で、今は危機的な状況ではあるけど電気自体は使えるので、物理的にはライブは可能。でも、集まれる”場”がない。”場”がないと、やっぱりライブはできなくて、ミュージシャンはどうやって”生きていく”か考えなきゃいけない。iPhoneで撮ったお手製の動画をSNSにアップすることはできるけど、それはYouTubeに上げて稼げるレベルかと言われるとそうではない。だから、最近はYoutuberすごいなって話になったりもする(笑)今回のオンラインイベントは、有料配信にふさわしいクオリティの高いコンテンツをつくるという意味でも、大切な試みになるんじゃないかなと思います」(Sauce81)

続くSoichi Teradaのプレイは、今回初めて披露された「Personal Hygiene Management」という新曲で始まった。直訳して”個人的衛生管理の歌”という通り、”みんなで手を洗ってCOVID-19に耐え、元気を出そう”というメッセージソングだ。

「もちろん本来なら目の前のお客さんに向かってパフォ―マンスをするんですけど、今回は誰もいない……。でも、配信だって画面の向こうに同じくらいオーディエンスがいるんだから、いつもと変わらない!ただ、どのくらいの割合でパフォーマンスをやるといいか、それが悩みどころです。多分、やりすぎちゃうと思います(笑)」(Soichi Terada)

画面越しでコール&レスポンスを試み、芝の上をスーツで(カメラが追いつけない速さで)爆走……。最初から最後まで全力で楽しむ彼の姿に、何千人ものオーディエンスが笑顔になったことだろう。「配信を決めた時から、寺田さんには絶対に参加してほしいと思っていたんです。今回のオンラインイベントで欠かせない存在」と主催者たちも語っていた。

“新曲の歌詞を記したボードを手に持ち、ステージからカメラに駆け寄るSoichi Terada。ピースフルな彼のパワーが、レンズを通しても十二分に伝わってきた”

夕暮れの最高潮、高まる一体感

日も暮れ始め、続くWata Igarashiは、どこか使命感のようなものを感じるディープテクノで魅せた。収録の際には、今回のオンラインイベントには、2つの大きな意味があると話していた。1つ目は”オーガナイザーやDJにとって”の意味。2つ目は”オーディエンスにとって”の意味だ。

「とにかく今はイベントができないので、表現の”場”が枯渇しているはず。料理人が毎日料理をつくるように、DJも毎日音楽をつくる。たとえカメラを通した配信だとしても、それを発信する”場”がほしいDJにとっては嬉しい。それが生活の一部だから。そして、このまま謹慎や自粛がずっと続いていくと、クラブで音楽を楽しみたいのに外出できない不満が爆発して、どこかで勝手にイベントが開催されてしまう可能性がある。オンラインだとしても、みんなで音楽を聴ける”ハレの日”をつくることで、ある種のガス抜きとして、悲劇を未然に防ぐことにもなるんじゃないか」(Wata Igarashi)

“夕暮れに轟くWata Igarashiのディープテクノ。ARも相まって幻想的な瞬間も”

「パーティーはみんなでつくるもの」

Part.1に記したように、今回はZOOM上でヴァーチャルなダンスフロアが設えられた。チケット購入者にURLが送られ、配信を見ながら参加者たちが繋がれるというもの。初めての試みなので、本番に先だって4月15日(水)に緊急開催されたDOMMUNEでの関連イベント「RAINBOW “TELE” DISCO CLUB」の際にZOOMダンスフロアのテストを行ったところ、ZOOMの使い方を知らない人が多いという課題や、画面越しと言えども初対面では盛り上がりにくい国民性を感じとり、当日は友人同士などの小さいコミュニティで各自楽しむことが推奨された。

それでも、公式のZOOMグループでは最大で100人以上が同時に踊っていた。ダンスミュージックへの愛だけを共有する見ず知らずの人たちが、世界中からひとつのプラットフォームに集合する様子は、不思議な感動があった。

私も途中で友人のZOOMグループに参加した。彼らは正午から繋げっぱなしだと言っていた。物理的に1か所の会場に集めずに、12時間にわたってオーディエンスを(良い意味で)拘束できたのは、音楽のポジティブなパワーと、それを愛する人たちのリスペクトの気持ちの表れだ。PC画面の前でひとり踊る様子を全世界に公開することは、シャイな日本人にとってはまだ少しハードルが高かったように思えたが、いつかそれも当たり前になる日が来るかもしれない。

「思った通り、お客さんが自分たちで楽しみ方を見つけてくれた。いや、思った以上かな(笑)」

今回の企画ではイベントを楽しむためのグッズが例年以上にたくさん準備されていて、参加者たちは気合を入れて自宅環境を整えていたはずだ。Tシャツやパーカーといったオリジナルウエアを事前に購入して身につけるのはもちろん、リビングにテントを貼って楽しむファミリーや、いわゆる”フェス飯”を自前でこしらえて、正午から乾杯して楽しむ人たちも多かった。

例えば、毎年RDCの会場で絵を描いているカナダ人のカルロスは、今年は会場に足を運べないので、映像を見ながらライブドローイングする様子をInstagramで配信していた。丁寧なことに、当日ライブ配信していいかどうか、主催者への事前確認まであったという。投稿には、「最近は大変だけど、このイベントで元気になった。この感動を絵に描いて、RDCのスタッフとアーティストにありがとうを伝えたい!」といった内容のメッセージも添えられていた。主催者たちが思い望んでいた通り、オーディエンスが自発的に楽しみ方を見つけ、積極的に発信していた。

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“カルロスが配信を見ながら描き上げたドローイング”

“配信の視聴用とZOOM用でPCを2台使いしたり、プロジェクターとスクリーンを駆使する家庭もあった。手元のスマートフォンは実況用だ”

他にも、各自がツールの使い方を工夫し、イベントをより楽しむための視聴方法が開拓され始めた。自宅から参加するイベント体験の、まさに過渡期という感じで面白い。

ついに屋外ステージでは最後のDJプレイ

“日は落ち、躍動感のあるプレイが一層際立つ。「Raffaele Attanasio – Gundam [MONNOM017]」が強烈な印象を残した”

夕暮れ17時半を過ぎ、RDCステージ組はクライマックス。DJ Nobuが現れ、荘厳なプレイで空気を変えた。もはや説明不要、レジェンドの貫禄を見せつけた圧巻の1時間だった。

「今回はフロアからのフィードバックがなくて残念だけど、オーディエンスを大きいリスクにさらしてはいけないし、DJはその責任を自覚しないといけない」(Nobu)

“図面と位置がずれ苦戦していたARもようやく完成し、特別な演出に。DJ Nobuのポイントクラウドは本人の動きに合わせて激しく変化”

DJ Nobuの迫力たっぷりなステージが幕を閉じると、7時間にわたる東伊豆クロスカントリーコースのステージはいったん終了した。

すると映像はおもむろにビデオコーナーに変わり、本来RDCに出演するはずだった、San Proper、MOTOR CITY DRUM ENSEMBLE、MOXIE、GE-OLOGY、rRoxymoreなど……。海外組からのメッセージが始まった。「RDCへの参加や来日を楽しみにしていたので中止になってしまって残念。今は大変だけど一緒に乗り越えよう」という内容だった。いつもRDCでステージ上に家族を上げるのでお馴染みのDJ・Antalからのムービーには、”また2021年に会いましょう”と日本語で書かれたボードを持った愛娘が登場し、ファンをあたたかい気持ちにしてくれた。世界各地のDJから送られてきたセルフィー動画がつながり、平和を願う想いが国境を超えひとつになった。

舞台は東伊豆クロスカントリーコースから都内某所へ

海外アーティストからのメッセージが終わると、舞台はがらりと変わり、”都内某所”で収録された「Red Bull Stage」が始まった。machìna、Licaxxx、CYKというフレッシュで強烈な面々が、個性的でエネルギッシュなプレイを見せナイトシーンを盛り上げた。

“トリをかざったCYK。4人の仲の良さと音楽愛が溢れて止まらない”

永遠と思われた12時間は、あっという間に過ぎていった。このコンテンツは、やっぱり単なる”配信映像”ではないと思った。ただの一方向的な映像の視聴に終わらせるものではなく、あくまでも能動的に、立体的なイベント体験への入り口として機能していた。

想いがひとつになったエンドロール

ラスト(なんと2時間強!)をつとめた若きDJコレクティブ・CYKのプレイが終わると、ある曲とともにエンドロールが始まった。山下達郎の「いつか(SOMEDAY)」だ。これは、2019年のRDCで最後に流された曲である。

と同時に、この曲のタイトルは、あるハッシュタグも想起させた。今回、RDCが中止となりオンラインイベントを開催することが決まった際、「#rdcsomeday」というタグをつけ過去のRDCの写真をSNSへ投稿するよう募っていたのだ。

“みんなのRDCでの思い出を募るポスト。Instagramに加え、FacebookやTwitterでも呼びかけられた”

エンドロールは、この企画で集められたみんなの写真たちが惜しみなく貼りつけられ、ゆっくりと思い出をふり返るように流れていった。クールな踊り場をつくっている”中の大人たち”を想像すると、ちょっぴり気恥ずかしくなるくらいに直球なアプローチ。

そして、最後の最後は、”皆でこの困難を乗り越えて、またいつの日か、ダンスフロアで会いましょう!”というメッセージで締めくくられていた。久しぶりにお昼から摂取したアルコールに、”SOMEDAY ひとりじゃなくなり……”と諭すヤマタツの歌声が優しいとどめとなって、人知れずうるっと来てしまった人も多いのではないだろうか。

“エンドロールを締めくくったメッセージ”

のちのインタビューでこの時の演出意図について尋ねると、「”感動させてなんぼでしょ(笑)”って、ラストスパート頑張ったよね」と主催者たちは照れていた。

イベント当日は3,000人以上を集客し無事成功を収めた。翌週、改めて実施した主催者インタビュー

“右がMasa、左がYuta、中央がKnock”

4月18日(土)のオンラインイベントを終えた翌週、主催者に2度目のインタビューを行った。例によって、ZOOMを使ったテレビ会議だ。

RDCには、毎年およそ3,000人が世界中から集まる。今回は有料配信ということで、チケットの売り上げ枚数を尋ねた。

「3,000枚を超えました!ありがとうございます!」(Masa)

チケットの売り上げ枚数としては毎年と変わらないように見えるが、ここで注目したいのは、チケットは1アカウントにつき1枚だったこと。すなわち、画面の向こうにはカップルやファミリー、友人同士という複数人の集まりがあったのだ。おそらく実際は少なくとも5,000人以上の観客が観ていただろうとのこと。

東伊豆クロスカントリーコース会場では入りきらないボリュームの人々が参加していたと思うと、オンラインだからこそのスケールに可能性を感じる。実際に「いつもは仕事で東伊豆まで行けなかったけど、今回は移動の必要がないから久しぶりに参加できた」というメッセージも多かったらしい。

一方、チケットが例年以上の枚数売れたとしても、チケット単価は例年よりだいぶ低い設定となっている。従来は3日間でおよそ20,000円(キャンプ券・駐車券別、最終ステージ価格)だったが、今回のイベント視聴料は2,000円(早割は1,000円)。つまり例年に比べ10分の1の価格だ。今回のチケット価格は悩みに悩み、先行事例であるceroの有料配信を参考にしたという。無料配信する有名イベントもある状況で、労力と相場感とのギャップに大いに悩んだ結論だという。

なお、例年のRDCの客層は、3~4割が外国籍の方(日本在住者含む)だが、今回は1~2割だったとのこと。

ヨーロッパでは日本に比べクラブシーンが大きく、DJやそこに関わる人たちの収入も多い。欧米のオーディエンスの割合が少なかったのは、”今回のような危機的状況下でも無料の配信コンテンツが充実しており、有料配信に抵抗があったからではないか”と主催者たちは分析している。

「日本のクラブシーンは小さく、国からの補償も十分とは言えません。そして今回はマネタイズのチャレンジをしたいという意図もあって有料にしたんですが、ヨーロッパの友人からは、”なぜこの時期に金を稼ごうとする?”という連絡もありました。理由を話したら納得してくれたけど、同じような意見を持つ人は少なくなかったはず」(Yuta)

国ごとのカルチャーやマーケットの違いに合わせた戦略は、今後配信型イベントを行ううえで鍵になるかもしれない。また、チケット購入までの動線が複雑だったため途中で離脱してしまった可能性があることも反省点とのこと。

「今までSNSに力を入れてこなかったんだけど、今回は本当に頑張ったよね」

RDCは、例年はそこまでSNSに力を入れていなかったが、今回はすべてインターネット上での体験になるので、自分たちは勿論のこと、参加者たちの意識も変えていきたいという想いが強くあり、オンラインイベントの開催発表直後から、投稿や参加者とのコミュニケーションを意識的に増やしていったそうだ。

配信当日は、MasaとKnockがInstagram、YutaがTwitterを担当して、徹底的にアクティブな”中の人”役に尽くしたらしい。Yutaは「実際に途中で倒れてしまうほど頑張った」と笑いながら語る。

「僕は嫁に話しかけられてもまともに返事できないくらい必死で、”Twitterやりすぎてこわい”って言われたもん(笑)DOMMUNEのすべての”中の人”、宇川さんは本当にすごい」(Yuta)

SNSの傾向としては、字数制限があり日本語との親和性が高いTwitterは国内で盛り上がったが、海外のオーディエンスはInstagramが中心だったとのこと。Twitterに比べてInstagramは写真や動画といったビジュアルベースなので、言語がちがっても気軽に参加できたのかもしれない。

「”もっと時間とお金があれば……”にキリはない。ただ、素晴らしい人たちと作品をつくれたことに心から感謝」

Masa曰く、今回の試みで最も大きい課題の一つだったのは、配信した音楽の再生装置が人それぞれに異なる状況だったことで、音響設計には相当苦労したという。音の専門家ではない私からすると音質に不満はなかった(むしろ大満足だった)が、音響にこだわりのある玄人オーディエンスからは、厳しいコメントもあったらしい。主催者側も大いに悩んだ結果、今回はテレビやPCで再生する人が最も多いだろうと予想し、それらで再生するのに最も適しているであろう、中音域が魅力的に聴こえる設計にしたそうだ。

「僕らも途中で聞いてて分からなくなっちゃうくらい何パターンも試したんだけど……。ハイエンドなオーディオで聞いた人には、物足りなかったかもしれない。時間と予算が足りるのなら、もっと音響にもこだわりたかった」(Masa)

映像に関する反省点もあったという。最初から覚悟はしていたが、スイッチング別のカメラ7台×12時間分の見直しだけで膨大な時間がかかってしまった。そのため、編集した動画の読み込み、書き出し、ZAIKOへのアップロードだけでも本当に大変で、出演者に最終確認してもらう時間がなかったことだ。主催者側としては事前の修正依頼に対応できず心苦しかったという。

一方で、出演者たちはイベント本番中に自分のプレイを見ながらSNSの反応を見たり、今までにない状況を楽しんでくれているようだった。

“自宅でリラックスしながら配信を楽しんだDJ Nobu”

「制限が多いなか、全員が本当に高いクオリティを発揮してくれた。素晴らしい人たちと作品をつくれたことに感謝しかない」と、主催者3人はしみじみふりかえった。

「まだレインボーディスコクラブやってるよ~」

インタビューの最中、4人目のゲストがZOOM画面に現れた。「え~?まだレインボーディスコクラブだよ~?」とYutaに抱きついてはしゃぐ6歳の愛娘、Kiriだった。そう、今回は配信当日から1週間後の4月25日(土)までアーカイヴを見ることができたので、当時RDCはまだ終わっていなかったのだ。

SNSでは、当日聴きのがしたアーティストの分だけ後日聴いたり、友人同士で再度イベント風に12時間再生したり、さまざまな楽しみ方が見受けられた。反響が大きかったので、本番以降もチケットを買えるよう販売期間を延長したそう。当日と同じ音源で公式に余韻に浸ることができるのは、オンライン配信のメリットのひとつかもしれない。

「ヴァーチャルでの体験が拡張するのが楽しみ。もっとインタラクティブ性が高まったらいい」

今回のような新しいイベントのカタチは、COVID-19による中止や延期の代替措置として急速に試みられはじめた。ヴァーチャル空間を使ったオンライン企画は、驚くべきスピードで進化している。

「今年のバーニングマンは気になるよね」(Masa)

ネバダ州のブラックロック砂漠で毎夏開催される奇祭「バーニングマン」が、今年はCOVID-19の影響を受けヴァーチャル開催すると発表したのだ。

「バーニングマンってもともとゲームっぽい世界観だから、それがヴァーチャルになった場合、本当にゲームのようになるのか。はたまた全く新しいものになるのか。楽しみです」(Yuta)

「ただ、バーニングマンの最も大きな魅力のひとつは”砂漠で生きる過酷さ”。それをどう表現するかが見どころだよね」(Knock)

RDCは、バーニングマンから参加しないかと過去に声をかけられたことがある。その際はネバダへの渡航がハードルとなって断ったが、今回はオンライン会場での実施ということで、現地に行く必要がないなら参加できるかもしれない。また、フジロックについても話は及んだ。

「今年のフジロックはまだどうなるか分からないけど、もし開催できず配信になったりしたら、無人のグリーンステージを勝手に想像してゾクゾクしてる。現地に人は行けないけど、自分の持ち物を何か送って置けたりできたらいいよね」(Masa)

今回のRDCでは、ZEPETO(アバターを作成し交流できるソーシャルアプリ)内の仮想空間でステージをつくる参加者もいた。アカウントがあれば、オーディエンスとしてアバターを踊らせることができる。

 

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“@tokyovitamin の @kenchantokyo がつくったZEPETO内につくったRDC空間”

「配信は環境や意識など、受け手に委ねる比重がどうしても大きくなるので、ヴァーチャル世界での体験が拡張して、より能動的に参加できると、よりよくなると思います」(Yuta)

5Gが普及しプラットフォームが進化すれば、オーディエンスの様子が即時にDJまで届きプレイに反映される、リアルタイムで双方的なコミュニケーションがとれるパフォーマンスも可能になるかもしれない。

Fortnite(バトルロイヤルゲーム)内でトラヴィス・スコットが行う新譜発表ライブが楽しみだとか、ベルリンのUnited We Streamのように色々なフロアをチャンネルで行き来できる仕組みがあったら面白いのではないかとか、イベントの未来を考える3人の話は尽きなかった。

“諦めのわるい大人たちが本気を出した文化祭”

今回の取材を終えて

COVID-19の影響で、さまざまなイベントが中止や延期を余儀なくされている。先も見えないなか諦めず、がむしゃらにつくり上げた今回のオンラインイベントは、音楽にとどまらず様々な業界の勇気となり、ひとつの事例として影響を与えただろう。「somewhere under the rainbow!」は成功に終わり、世界中の”おうち時間”にハレの日をつくり、”心が動く瞬間”を思い出させてくれた。

また、それと同時に、リアルな場でしか味わえないものが確かにあるということにも気づかせてくれたのではないだろうか。日中の太陽でじりじり肌が焼ける感覚や、汗を流して踊り乾杯する悦び、夕暮れに吹く心地よい風や夜空の星の美しさ。現地で五感を使って感じるもの、直接人が対面して場を共有する楽しさは、なかなか現実世界にはかなわない。

PC画面の前で”早くあの場所にみんなで集まりたい”と強く思った人も多いだろう。何もかもオンラインイベント化していく中で誰もが感じつつあると思うが、それらはあくまでヴァーチャル世界のコンテンツであり、リアルと全く同じ感動を得るための”代わり”にはならない。ZOOM飲み会は確かに楽しくて便利だけど、行きつけの飲み屋での一杯とはやっぱりどこか違う気がする。

一方で、ヴァーチャルはヴァーチャルだからこそ実現しうる体験を追及することもできる。どこにいても誰とでもつながれるし、自分の姿を変えたり、空を飛ぶことだってできる。今後のテクノロジーの進歩によるデバイスやプラットフォームの充実によって、さらにリアリティや没入感を高め、現実世界では有り得なかった体験を生み出せるのだ。このフィールドは急速に成長するだろう。

COVID-19が収束し安心して外出できるようになったら、リアルとヴァーチャルの融合がより一層進み、双方の魅力がかけ合わされたイベントが増えるはず。今までよりエクスクルーシブで特別な現実世界での体験と同時進行で、仮想空間でしか味わえない体験を全世界に配信するといった両輪ビジネスが流行するかもしれない。

まだまだ自宅から出られない日、友人に会えない日、大好きな場所で音楽を聴けない日が続くだろう。〈だけどいつまでも顔を曇らせ つらい日を送ることはない〉。今は部屋でひとりでも、”いつか”みんなで集まって音楽を浴び踊ろう、未来は明るい!

(〈〉内は山下達郎の「いつか(SOMEDAY)」より引用)

[EVELA編集部は、配信現場での取材、そして開催直前の主催者への遠隔インタビューを敢行した。リアルイベント中止の決断からオンラインイベント開催まで、主催者たちに経緯や想いをまとめたPart.1はこちらから]


Photo: TETSUTARO SAIJO
Text: REIKO ITABASHI