自然体、魅惑的、波のように。
池尻大橋の珈琲屋で「JP THE WAVY」というラッパーに出会った。彼は毎日のように現れ、彼女や仲間に囲まれながら静かに珈琲をすすっている。次第に公私の話をするようになると出てくるのは、パブリックに持たれているだろう彼のイメージとは打って変わった意外な一面ばかり。そんな彼のチャーミングな魅力をバラ撒きたくて、自宅にお邪魔させてもらいその素顔に迫った。20年代らしさを最も体現するラッパーは誰なのか? このインタビューがその答え合わせだ。
「早くいっぱいリハーサルとかしたいっすね」
“超WAVYでごめんね”。キャッチ―なリリックと中毒性のあるトラックでじわじわと人気が出て、SALUをフィーチャリングに迎えたリミックス版のビデオクリップ再生回数は1466万回に(公開日現在)。そんなバイラルヒットで一気に注目を浴びることとなったWAVYの素顔は、曲やMVのイメージとはちょっと違う。野菜と魚が嫌いで、ライブ後にはひとり神社に行くらしい。話を聞けば聞くほど、“ピュアな努力家”と呼ぶにふさわしき好青年だった。
「俺は今も昔も多分変わんないっすね。友達と一緒にいるのが好き」
WAVYの生まれは湘南だ。仲間と過ごした少年時代だったという。今日もいつものようにWAVYの自宅に遊びに来ていたのは、友達のRicky。彼は「Cho Wavy De Gomenne」のMV出演者でもある。WAVYのことを兄貴のように慕うRickyに、WAVYの存在について聞いてみた。
「WAVYは、カッコいい! 最初会った時から、見た目とかにもめっちゃ気遣ってるなと。ファッションと生き方について、いつも教えてもらってます。周りにここまでちゃんと考えてる人がいなかったので、勉強になってます」(Ricky)
ヒップホップに魅了され、好きなことを突き詰めてきたWAVYだからこそ、そのこだわりは強い。ブレない軸に引き寄せられるように、人はWAVYの周りに集まる。そうやっていつの間にか沢山の仲間に囲まれているのが、彼のウェイビーなところの一つだ。
「めっちゃこだわりはあるっすね、ファッションで言ったら、新しいもの、ブランド、古着も大好き。かっこいいかどうかの基準は……なんだろう。ヒップホップかヒップホップじゃないか、かな。例えばどんだけカッコいい良いもの着てても、帽子から前髪出してたら、俺の中ではクソダサ認定になるし。そういう細かい“ヒップホップ判定”から基準ができてます」
そんなWAVYには自宅のほかに、仲間たちといつも集まる場所がある。それが常連客から“グッピー”と親しまれている「Good People & Good Coffee」、筆者がWAVYと出会った珈琲屋だ。WAVYの曲の中にはこの店名を冠した曲まであるほど、彼の生活に密着したキープレイスである。家と変わらずリラックスできる貴重な場所だとWAVYは語る。
「何をしているかと言えば、グッピーで話すか家で話すか、買い物行くか。家では皆でYouTube見たり……特に何して遊ぶとかはない。音楽の話をすることが多いっすね」
結局仕事(音楽活動)の話になることが多いというWAVYの制作スタイルは、仲間と一緒につくること。遊びながらつくるのが楽しくて、大変さはないという。WAVYの周りには笑いが絶えない。一度耳にすれば頭から離れなくなるような、言葉で遊ぶリリックの数々は、仲間との愉快な会話の中から多くが生まれているのだと納得する。
「多分家に毎日引きこもってたら書けない。皆で遊んだり出掛けたりしてる方がアイデアが出てくる。あとは、買い物が一番でかいかな。買い物するとすごいテンション上がって書けるっすね」
6月26日(金)にはEX THEATERで初のワンマンを控えているWAVY。ライブへの意気込みを聞くと、「緊張はしてないけど、心配はしてる。早くいっぱいリハーサルとかしたいっすね」と、真面目な一面が顔を出した。今後どういうことがしたいか尋ねてみると、さらに真面目な答えが返ってきた。
「うーん、今はないかな。モデルとか、こういうインタビューとか、現時点でやってることはこれからも色々やりたいですけど。ここから新しいことをやるというよりかは、ラップとかアーティストの部分をもっともっと頑張りたいっす。やらないといけないと思ってることがいっぱいあるんで」
真摯に自分と向き合うWAVYのひたむきさは、真剣な作品づくりが人を無意識ごとひきつけると証明する。そんなWAVYの見つめる先は、世界だ。
「世界に飛び出たいっす。3年前の俺もこんな風になるって何も予想してなかったし、未来はわからない。だけどとりあえず、頑張るって気持ちを常に持ってることが大事かなって」
「いきりオタクって感じかな(笑)」
「WAVYの嫌いな食べ物が多すぎて、最初はびっくりしました。野菜と魚がほぼ全部ダメなんです。でも無理やり食べさせてたらちょっとだけ受け入れてくれるようになりました、野菜ジュースとか(笑)」(Niina)
WAVYと彼女のNiinaはもうすぐ3年の付き合いになる。ふたりとも人見知りなのに、お互い会った時から自然に会話が弾んだという。誰が見ても歴然なくらい、いわゆる“ニコイチ”な関係のふたりは、相互作用を受けて両者ともがポジティブに変質していっているように感じられた。WAVY以上にWAVYのことをわかっていそうなNiinaに、彼の印象を聞くと……。
「“奇跡的に不快じゃないナルシスト”って感じですね。そういう人って多分すごく少ないと思うんですけど。自然に自分のことを好きみたいな感じで、不快さがないんですよ。周りもそれを受け入れた上で接してくれているから、“調子乗ってる”とかそういう方向には絶対にいかなくて。単純に自分が好きで、ちゃんとそれを努力に還元してる。“本質”って感じです」(Niina)
「皆さんのおかげです……」と腰の低いWAVY。そんな彼の私生活がもっと知りたくなり、最近興味のあることについて尋ねると、これまた意外な“健康”というワードで打ち返された。
「最近は健康に気を使ってて。野菜食べられないんでやばいなと思って、知り合いからもらったジューサーで毎日野菜ジュースを作って飲んだり(Niinaに作ってもらうそうだ)、サプリ飲んだりしてます。よさそうなのをちゃんと色んな人から聞いて。俺は買い物上手なんです!」
しかもWAVYはお酒を飲まない。嫌いではないし飲めないわけでもないが、酔っぱらっている時の自分がカッコよくないから、辞めたのだという。今の生活は、いわゆる“パリピ”とは縁遠い。
「皆たぶん俺のことパリピ代表ぐらいに思ってるけど、パリピか根暗で言ったら断然根暗の方です。色々楽しいことも好きっすけど、根の根は陰キャ。いきりオタクみたいな感じかな(笑)」
「誰も知らないっすけど、普通皆ライブしてそのままクラブで飲んで寝て起きて帰るのに、俺は終わってすぐホテル戻って寝て、朝起きて神社行って帰る(笑)」
予想外の顔を惜しげもなく出してしまう飾らない姿に、WAVYのチルな魅力は滲み出る。肩の力を抜きながらも、ものを見極めるパワーや確固たる信念が見え隠れし、そこに健全な自己愛を絡ませていくWAVYは、“20年代最強のラッパー”といっていいだろう。カッコつけてるのはダサい。いわゆる“ワル”はもうカッコよくない。そんな20年代的風潮が、透き通るような空気を纏うWAVYの色気をさらに匂い立たせているのかもしれない。
最後に、自分のいちばん好きなところを聞いてみた。すると、「難しいっすね……」とじっくり悩んだ末に「自分が決めた目標は、絶対に達成するところです」と、最後まで“ピュアな努力家”のWAVYらしく、プレーンながらストイックな素晴らしい答えをくれたのだった。
JP THE WAVY
神奈川県湘南出身、1993年生まれ。2017年5月にYouTubeにアップしたデビュー曲「Cho Wavy De Gomenne」がヒットし、一躍ヒップホップ界期待の新星に。4月8日(水)には待望のファーストアルバム『LIFE IS WAVY』をリリースし、クラブツアーとワンマンライブを行う。肉とコーラが好き。
Photo: VICTOR NOMOTO
Text: RIO HOMMA