藍色のスタイル。滑ることへの愛。
2020年春に始動したスケートクルーのKOIAI。クルーの立ち上げを行ったKimiを始め、7人のメンバーで構成され、それぞれのメンバーがスケートボードはもちろん、ほかの表現方法を用いた制作活動も行なっている。活動を開始して間もないこともあり、KOIAIの情報を得られる場所はInstagramのみ。ただ、淡い青で統一された彼らのページは、既存のスケートボードの表現に新たな風を吹き込む可能性を感じさせてくれるものだった。そんなKOIAIについて、Kimi Judsに話を聞いた。
左からKimi、撮影に協力してくれたKOIAIメンバーのDaisaku。
KOIAIはKimiを中心に集まった、Daisaku、Kosy、Yushi、Seiya、Yasuhiko、Onanの7人で構成されている。さらにKOIAIメンバーは最年少が18歳、最年長は28歳で、世代を超えた集まりにもなっている。「2019年頃からグループを作りたいというアイデアは頭の中にあって、最初に話したのはDaisakuだった。彼は、僕と音楽やアートのテイストも似ているからね。ちゃんとメンバーを集めだしたのは2020年の3月頃。その時点で6人のメンバーが集まっていて、7人目のメンバーが加入したのは夏くらいだったと思う」
KOIAIという名前には、「濃・藍」という彼らのテーマカラーを表す意味がある。「スケートボードに向き合うためのコミットメントも、払っている犠牲も大きい。みんな怪我をしたりしているしね。スケートボードという文化はちょっとダークだなと感じていたから青をテーマカラーにしたんだ。実はダブルミーニングもあって、濃い愛、つまり深い愛という意味もあるね」。濃藍と濃い愛をかけたネーミングには、彼らのスケードボードカルチャーに対する愛も隠されているのかもしれない。
「スケートボードとアートを繋げる表現」
Kimiには、KOIAIを始めた動機としてスケートボードの文化とアートのアウトプットを繋げたいという思いがあった。「スケートだけじゃなくて、他のクリエイティブな創作にも力を入れたグループを作りたいと考えていたんだ。メンバーに求めていることはスケートを楽しむことはもちろん、それに加えてそれぞれがクリエイティビティを発揮できることだった。KOIAIのメンバー7人はそれぞれデザイン、写真、動画、コラージュやミックスメディア作品の制作、音楽などのスケートボード以外でもクリエイティブな活動をしている。メンバーおのおのがしている制作活動が掛け算されてアウトプットされているんだ」
そんなKOIAIは現在スケートビデオを製作中。スケートボードでトリックを決める様子などを、1本の作品としてまとめたもので、写真とともにスケートボードの直接的なアウトプットの1つとなっている。KOIAIとして、アートとスケートボードを織り交ぜた作品を作っているという。さらに、来年中にアートショーと連動したスケートビデオのプレミア上映イベントを開きたいという構想も練っている。ただ意外なことに、スケートビデオはDVDのフォーマットでも出したいという。
「個人的にYouTubeがメインストリームになる前に育ったから、僕のお気に入りのスケートビデオはみんなDVDとして残っているんだ。時代とは逆行しているかもしれないけど、DVDみたいに物として残るもので、スケートボードの文化の中でも歴史があるものには価値があると思う。DVDを優先的に出すことで実際に手に入れた人にも付加価値も感じてもらえるんじゃないかな。もしかしたら、ZINEやステッカーを付けたりもするかもしれない」
取材を行ったレインボー倉庫にはスケートショップの16(シックスティーン)がある。KimiとDaisakuは、16が原宿にあった頃からの常連だったという。店主であるKBと和気藹々と談笑する姿も印象的だった。
「表現として拡張するスケートボード」
スケートボードを中心に、その他の創作も行うKOIAIメンバーの7人。スケートボードとそれぞれの創作はどのようにつながっているのだろうか。スケートボードの文化をアウトプットする方法はスケートボードで滑ること以外にも存在するようだ。
「今は、写真家やアーティストとして活動しているスケーターも多くいて、スケートボードを取り巻くクリエイティビティは多様化してきていると感じている。個人的には、スケートボードそのものが自己表現の側面をもったアクティビティだと思う。だから、多くのスケーターにとっては、スケートをすることを起点としてそれ以外のメディアでの自己表現もしやすいのかもしれない」
KOIAIのそれぞれのメンバーが、スケーターとして実際にその文化の核心に触れているからこそ、その他のメディアで行う表現もスケートボード文化のアウトプットとなり得るのだ。
スケーターには、それぞれ個性、スタイルと呼ばれるものがある。スケートボードに対するスタンスやトリックへのアプローチなどを総合的に見たものがスタイルと呼ばれ、スケートボード文化において重要な要素となっている。KOIAIのメンバーには、創作とスタイルの間にはどのような関連性があるのだろうか。「具体的なスケートボードのスタイルと創作の関係性に関しては言語で説明するのは少し難しいけど、結びつきはある。そこは実際にKOIAIのスケートビデオとアート作品を見て感じてもらえたらと思っているよ」
メンバーが各々の活動を行っていることは、グループとして1つの作品を作り上げることにも繋がっている。「KOIAIで1つの作品を作る時に、その過程を全てインハウスで完結させられるようにしたかったんだ。今はスケートビデオに使っている音楽もメンバーがつくっているし、写真やビデオもメンバーが撮っている。みんな顔見知りでお互いのことをわかっているからコミュニケーションも取りやすいし、外に何かを頼むよりスムースに進められると思う」とKimiは言う。つまり、それぞれのクリエイティビティがグループを繋げる要素の1つとなっている。
「最優先事項は楽しむこと」
KOIAIのスケートボードに対する姿勢は、それを楽しむことだ。「個人的には、プロのスケーターになりたいわけじゃないし、スケートボードは大好きだけど、仕事になったら楽しめなくなってしまうんじゃないかと思ってる。今はスケートボードの文化も広がって大きくなってきているから、いろんな考え方があると思う。その中で、僕らはうまくなるためとか一番になるためではなくて、楽しむためにやっているタイプかな。スケートはやりたい時にやるという感じ」
アメリカやヨーロッパを中心に、企業、ブランドがスポンサーについたプロのスケーターが存在している。また、オリンピックの競技として採用されたことで、スケートボードをスポーツとして認識している人もいる。しかし、スケートボードは文化的背景から生まれたコミュニティーを含めた広いシーンという側面もある。そんな文化としてのスケートボードシーンを重要視するKOIAIが追求するものは明確だ。楽しむことだという。
「スケートする上でメンバーにもそれぞれのゴールはあると思う。例えばこんなトリックができるようになりたいとか。でも、それ以上にみんな楽しもうという感覚が強い。みんなで集まってビデオも撮らないでスケートすることもあるけど、それは練習というより楽しむためにやっている。逆にビデオを撮るためにスケートする時はスケートボードの枠組みの中で、何かを生み出したいからなんだ。フィルムを撮る時はスケートボードを自己表現やクリエイティビティが発揮できるものだと捉えている」。自己表現としてのスケートボードを、義務感ではなく、その愛ゆえに楽しもうという姿勢がKOIAIの根底には存在している。
スケートは1週間のうちに2回か3回、オフの日か仕事が終わってから滑りに行くというKimi。普段はどんな場所でスケートしているのだろう。「僕らはストリートを滑るのが好きかな。ただ、東京は必ずしもスケートボードに理解がある人ばかりではないからちょっと大変だね。日中であれば東京を離れて湘南、横須賀辺りに行くことが多い。あの辺りはサーフィンが文化として根付いているから、スケーターにも理解があるし、寛容なんだ」
スケートボードと街には大きな関連性があると話してくれたKimi。スケートボードという視点は、生活者やデベロッパーとは異なる角度から街を見ることを可能にする。街の中に同化した存在としてではなく、俯瞰したスケーターからの視線が街に存在する新たな余白や可能性を見せてくれるのかも知れない。
スケートボードとそれぞれの表現をかけ合わせ、その文化をアウトプットしているKOIAI。彼らの今後目指す先はどのようなものなのだろうか。「直近の目標はビデオを完成させて、上映イベントと連動したアートショーを開催することだけど、ゆくゆくは洋服などのグッズを作ることにも興味はあるね。ただ、KOIAIをブランドにしたいわけではない。そうなってくると、スケジュールに従ったり外の人達が求めるものに答えなければいけなくなってくる。創作に関しても期限はできるだけ設けないようにしているんだ。プロフェッショナルであることや金銭的な成功、そういったことにはあまり興味がないし、どちらかといえばパッションで始めた創作活動だからね」
純粋に楽しむというスタンスは崩さず、スケートボードとアートをクロスオーバーさせた表現を行うKOIAI。Kimiへの取材で浮かび上がってきたのは、スケートボードを中心として広がるクリエイティビティの可能性だった。スケートボードを自己表現と捉えることで、街はキャンバスのように自由な表現の場として活動することを促してくれる。今制作中の作品は、スケートボードとアートという視点からどんな景色を見せてくれるのだろうか。
KOIAI
Photo:VICTOR NOMOTO
Text:MASAKI MIYAHARA