長野県白樺湖のほとりにある白樺湖グランドにて、11月21日(土)、22日(日)の2日間にわたり、野外イベントが開催された。その名も「湖畔の時間」。山でも海でもなく湖を舞台にしたこの興味深いイベントは、「白樺湖レイクリゾートプロジェクトチーム」が主催したもの。白樺湖エリアを2020年代に合った“新しいレイクリゾート”としてアップデートするため、地元にゆかりのあるメンバーを中心に、各分野のプロフェッショナルが集まり実現に至ったプロジェクトの第一章だ。
周囲を山に囲まれた白樺湖の遠景。この周辺は気候が安定していて晴天率が高いそう。澄みわたった空に凛とした空気が充ちていた。
イベントの開催時間は10:00〜18:00、入場チケットがあれば会場内すべてのコンテンツが楽しめる。事前購入の様子では1日500~600人ほどが訪れた想定で、感染症対策のもと入場審査が行われた。入口付近には、メインヴィジュアルをあしらったタイムテーブルやマップが並ぶ。
会場には、地元・長野の魅力を発信するブースがずらり。まき割りや火おこし、白樺のクラフト、バターづくりなど、子どもから大人まで楽しめる体験型コンテンツが豊富にそろう。
中央の広いスペースには、あらかじめ立てられたテントやベンチが並び、来場者が自由に寛げる。アウトドア初心者でも快適に過ごせるよう、優しいキャンプギアが揃えられていた。
広場を歩いて奥へ進むと、湖をバックに水際に小さなステージセットが登場。日曜日のオープニングアクトは、masatonagumo。彼自身が手掛ける東京のレストラン「Sta.」の選曲に定評がある通り、朝の湖畔に溶け込むアンビエントミュージックで、心地よい非日常を演出した。
ステージ前には、ふかふか落ち葉の上にベンチやキャンプチェア、絨毯が敷かれており、手ぶらでもチルアウトできるスポットが点在。各所に置かれた焚火は、木曽駒ヶ岳登山の玄関口・駒ヶ根高原を拠点とする薪ストーブブランド「FIRE SIDE」のもの。美しく際立つ白樺の間で、焚火で暖を取りながら読書をしても良し、うたた寝したっていい。
オフィシャルドリンクバーは、主催である池の平ホテル&リゾートからの出店。身体をあたためるホットサングリアやホットバタード・ラム、長野のクラフトビールまで、今の季節にぴったりなラインナップだ。オロポとは、オロナミンCをポカリスエットで割った、サウナーに大人気の飲み物。
東京でバーテンダー等を経験したのち白樺湖を気に入って移住したという中筋健太氏も、中心メンバーのひとり。いつもは湖畔のレイクサイドプラザの一角で不定期で”中筋バー”を運営しているそうだ。
朝晩は特に冷える白樺湖。「珈琲&BEANS カリオモン」の出張カフェの珈琲で両手を温めながらライブを楽しむ人も多い。
ドリンクだけでなくフードも自慢の本イベント。広場にならぶフードブースも、地元長野の名店がずらり。「Cirkus.(チルクス)」のバターチキンカレーは、辛さ控えめのクリーミーな味わい。フードトラックでのみ活動・販売していて常設店舗はないため、初日は早くに売り切れたそう。
腹ごしらえをし昼過ぎから始まったのは、スカートのステージ。リハーサルの歌声を聴きつけて、次第に人が集まってくる。
澤部渡の優しくご機嫌な声が湖面と青空にひびき、人々はうっとりと寛いだ。来場者にとってもアーティストにとっても、生音のライブは久しぶり。「(コロナ禍で)次回のライブ告知なんてないが、今はただこの時間が嬉しいよね」とこぼす最後のMCに、じいんと感情が動いた人も多かっただろう。
ライブをゆっくり楽しむのもいい一方、アウトドア・アクティビティにも最適なのが高原リゾート白樺湖の魅力とのこと。主催メンバーのひとり、白樺湖生まれの元アスリート・福井五大が代表を務める「八ヶ岳アドベンチャーツアーズ」は、カヌーや電動アシスト付き自転車「eバイク」の体験を提供。
白樺湖の周りはぐるり丁寧に整備されたサイクリングコースが囲む。自然体で美しい白樺並木に沿って、次々と風を切って駈け抜けるのは最高の気分だ。
海とちがって波がなく静かな湖だからこそ、親子で安心して楽しめるアクティビティも多い。カヌー体験者は、会場からすこし離れた乗り場から漕ぎだし、湖の中心部まで縦横無尽に行き来して楽しむ。湖上の新鮮な空気を思い切り吸い込んで、体内の空気を総入れ替え。
信州・白樺高原の長門牧場は、焼きたてパンやスイーツ、グッズを販売。手づくりバター体験も。
薪ストーブブランド「FIRE SIDE」監修の薪割りワークショップ。日常生活でなかなか斧を握る機会のない子どもたちには、ワイルドで刺激的な作業だ。割った薪を火にくべるのも嬉しい。
ブースでは他にもさまざまな焚火アクセサリーを試せる。オーストラリア生まれの煙突付きファイヤーピットにストーブトップを取り付ければ、自分で割った薪を使ったポップコーンクッキングがスタート。最後に塩とはちみつで味付けすれば、絶妙な甘じょっぱさがくせになる抜群のおやつが完成。
地元・茅野でツリーケアを行う専門企業「木葉社」の出店。彼らは、樹木の剪定や伐採、診断や治療など、アーボリカルチャー(樹木業)に取り組みながら感じた樹木の魅力を伝えるため、デザイン事務所と共同で「yaso – ヤソ-」というプロジェクトも実施している。森で集めたかわいらしい枝葉のほか、赤松葉のお茶、お香などを素敵なプロダクトにしておすそわけ。オンラインサイトでも購入できるが、一点ものはすぐに売り切れてしまうほど人気。
木葉社プロデュースの火おこし体験では、大人たちが子どもごころに返って夢中に。
もっと身体を動かしたい人向けには、THE NORTH FACEのアスリート・志村裕貴によるトレイルランニング教室も。白樺湖周辺の高原は道が整備されており、湖でのアクティビティはもちろん、登山やトレッキングやキャンプなどの「山の遊び」のポテンシャルも秘めているそうだ。
トレラン教室から下山して一息つくと、アーティストステージにはSalyuが登場。絨毯に寝ころび贅沢なシエスタを楽しむ人も。
カヌーに乗り湖面に身体を委ねながら、自分だけのプライベート空間で音楽に浸る。ユニークなライブの楽しみ方は、湖畔イベントの新しいスタンダードになるかもしれない。
白樺湖周辺は16時過ぎに日が暮れ始める。Salyuの儚く強い歌声とともに時はうつろい、あたりは幻想的な景色に変化していく。
朝いちばんで予約しておいたのは、目玉企画のひとつ・テントサウナ。サウナーなら知らない人はいない「TTNE」とのコラボレーション企画だ。参加費は無料で、タオルや水着、湯あみ着は有料レンタルできる。リラクゼーションドリンク「CHILL OUT」も配布された。
「TTNE」監修のテントサウナは種類違いで3つスタンバイ。自然に囲まれた湖畔での外気浴は、他では味わえない”整う”を期待させる。50分×7回転で1日あたり先着175名の枠だったが、開場とともに予約でいっぱいに。午後には、予約をとれなかった人が追加枠をじゃんけんで争奪する”敗者復活戦”も行われ盛り上がった。
各テントサウナにはビニール窓がついており、あたたまりながら湖畔の景色を臨むこともできる。初対面のはずが、互いにロウリュで熱波を贈り合ううちに、いつの間にか仲を深める人々も。
水風呂のあとに地上に戻ると、身体中から一気に湯気が立ち広がる。海水と違って塩分でべたつかないので、さらりと快適な状態で過ごせるのも良いところ。湖のほとりに用意されたキャンプチェアで焚火を囲む外気浴の気持ちよさは格別だ。音楽ステージからのDJプレイも遠く聴こえてくる。
17時前にはすっかり日が落ちて暗くなった会場。沢山のイルミネーションライトで可愛らしく演出され、昼間とは違う神秘的な表情を魅せた。
その頃、ステージでトリを飾ったのはDJのYOSA。岡村靖幸や七尾旅人、スチャダラパー……と、「モテキ」のサウンドトラックを彷彿とさせるヒットナンバーでフロアを躍らせ、湖畔の時間を楽しく締めくくった。
会場の中央には、強く穏やかな炎を湛えるキャンプファイヤーが鎮座する。ゆらぐ火を見つめながら名残を惜しむ参加者たち。”静”なる湖畔で過ごす時間は、忙しくない日常生活で摩耗した心身の感覚を取り戻すきっかけにもなっていたようだ。何もしないことこそがエネルギーチャージであり、現代人が求める”豊かさ”かもしれない。
「湖畔の時間」の主催である白樺湖レイクリゾートプロジェクトチームは、今夏に本格始動したそうだ。noteには、発足のきっかけやメンバーの想い、白樺湖の価値を最大化するためのアイデアノートが丁寧につづられている。発起人は、白樺湖生まれ白樺湖育ち、観光事業に誇りと責任を持って家業の土着ディベロッパー「池の平ホテル&リゾーツ」を継いだ矢島義拡社長だ。
第二次世界大戦前後、農業用の”ため池”として地域住民が心血注ぎつくり上げた白樺湖エリアは、別荘ブームで盛り上がりを見せたが、その他のリゾート地と同様、観光事業の落ち込みとともに過疎化傾向にあった。近年はすこしずつ賑わいを取り戻しているが、矢島社長は、中学の頃に最も印象的だったある村を手本にしたいと思っていた。創業者でもある祖父に連れられ訪れた世界有数の山岳リゾート・スイスのツェルマットだ。住民自らが誇りをもって生活を楽しみ、その魅力を来訪者にシェアするという幸せなサイクルに心を打たれたからだ。
そんなツェルマットを2013年に再度訪ねた際に改めて感銘を受けた矢島社長は、白樺湖を「生活文化と湖が調和する“レイクリゾート”」としてリコンセプトしたいと強く感じた。そんな想いを抱えたタイミングで、観光事業に関わる同世代のプレイヤーたちに地元で出会う。白樺湖を育て次世代につないでいくという目標を共有した仲間がつながり、プロジェクトが生まれた。
山でも海でもない湖だからこその楽しみ方を追及しつつ、長期的な視野で”村”づくりに本気で取り組むチームの存在。イベントを通して、白樺湖に関わる人々の地元への愛、日本の”レイクリゾート”が持つ新たなレジャーシーンの可能性を感じた。2020年代に地方に訪れ住むことの圧倒的魅力を開拓するパイオニア・白樺湖レイクリゾートプロジェクトの今後の展開が楽しみだ。
湖畔の時間(11.21‐22.2020|Nagano)
会場:白樺湖グランド(〒391-0301 長野県茅野市北山白樺湖3419-1)
日程:2020年11月21日(土) ・11日22日(日) 10:00〜18:00
来場予定人数:1000人(各日500人)
主催 :白樺湖レイクリゾートプロジェクトチーム(池の平ホテル&リゾーツ / 八ヶ岳アドベンチャーツアーズ / 信州たてしな観光協会 / quod,LLC)
協力:FIRE SIDE / TTNE
企画・制作:湖畔の時間 2020 実行委員会
〈Instagram〉
Photo: TETSUTARO SAIJO
Text: REIKO ITABASHI