ギャングスタヒーローは見るまえに跳ぶ。

1996年川口生まれ、川口育ち。MESSこと召田湧真の顔は、ひとつではない。グラフィックデザイナーとしてクライアントワークをこなしているかと思えば、東京のストリートユースシーンで活躍するコレクティブ「RepYourSelf」のクルーとしてPVを監督していたり、ビデオディレクターとして人気ラッパーの映像やアートワークを担当していたりと、変幻自在の顔を持っている。そして、そこにはいつも沢山の仲間がいて、MESSが起こす次の「アクション」を待っていた——。

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「ヒップホップの魅力に惹きこまれて」

MESSがグラフィックデザイナーになったきっかけは、元をたどれば漫画にあった。小さい頃から絵を描くのが好きで、中学生のころには自分で描いた漫画を集英社に持ち込んだこともあるという。思い立ったらすぐに行動するフットワークの軽さが、MESSを構成する要素のひとつともいえるかもしれない。

「『本物の原稿を見せてあげるよ』といってバクマンの原稿とか見せてもらって。新人賞みたいなコンテストにも出してもらって、最終候補の候補らへんまで残りました。あとはNARUTOの単行本の読者投稿ページにオリジナルキャラクターを投稿して、載ったりもしましたね!」

中学生から頭角を現し漫画家を志していたMESSだが、家族の趣味と高校時代の友達との出会いが、MESSの歩む道を大きく変えることになる。

「元々お父さんがヒップホップ好きで。連れていかれたカラオケで、オジロザウルスとかZeebraとか歌ってたんです。その影響もあり、お兄ちゃんがラッパーになったんですよ。俺たちが高校の時にライブとかしてて。俺もヒップホップを聴いていてヒップホップ好きの友達がたくさんできたから、それに友達を連れていったり、イベントに行ったりするようになりました。友達のなかのひとり、リッキーとは、四六時中一緒にいましたね。その頃ちょうど『高校生ラップ選手権』も流行り始めて。ヒップホップの魅力にどんどん惹きこまれていきました。代々木公園でサイファーしてる人たちを見に行ったりとか」

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MESSが常連のホットサンドショップ「WENT 2 GO」。ヌテラの塗り込まれたクロワッサンがお気に入り

「悪いことはしないと決めている」

ヒップホップというと、音楽としての秀逸さはもちろんあるが、どうしてもたばこや酒、ドラッグといったイメージが、PVなどにも多く登場するがゆえ拭えない側面もある。しかしMESS本人はというと、驚くほどにクリーンで誠実だった。

「両親は中卒ヤンキーで、育ちは結構悪いかもしれません(笑)。でも、全然グレはしなかったですね。お父さんお母さんの友達も川口の元ヤンみたいな破天荒な人達だったんですけど、親にも周りの人たちにも俺はすごく可愛がられて、自由にさせてもらいました。ただ、『お前だけは悪くなんなよ。せっかく真面目なんだから、真面目なまま生きろ』って。だから周りの荒れてる人たちを見ていても、反面教師にできたんですよね。小さいころからタバコとかも全く興味なくて。悪いことはしないと決めていますね。地元の人たちからは、筋は通す、できない約束をしない、とかそういう義理人情を学びました」

生来の一本気な性質をもったMESSは、当然のように周りからの愛情と希望を一身に背負う。生活がヒップホップに彩られるようになっていったと同時に、ヒップホップにまつわるアート——グラフィティやポップなキャラクターなど——にも興味を持ち始め、自分で創作をしていた。そんな中、友人から頼まれ、CDのジャケットを描くことに。

「そこから音楽がらみで絵を描くことに興味が出てきて、高校の先生に相談したら、アートみたいな絵を描くよりはデザインをやった方が仕事として成立すると言われて、東京工科大学のデザイン学科に入りました。専攻は視覚デザインです」

ここできちんと教師に相談するのが、なんともMESSらしい。その素直さは、周りにある“良いもの”だけをスポンジのように吸収し、そんなMESSから漂う信頼感が、仲間を常に絶やさない。大学在学中には仲間と共に「RepYourSelf」を結成する。

「デザイン学部では、絵を描くのが好きなヒップホップ好きの友人ができて、彼らとグループ展に参加することになったんです。展示には有名な美大の人たちもいてその中に放り込まれて会場の前で遊んだりしてたら、わりと怒られて。その時に、俺たちでみんなで騒げるようなクラブイベントノリの展示をやろうとなった。『RepYourSelf』はその展示につけた名前だったんですよ。グループ展を見に来てくれた友人も加わって、総勢11人のRepYourSelfクルーが生まれました」

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展示の話は最終的に流れたが、代わりにメンバーがラップをつくり始め、その勢いは増していった。「RepYourSelf」というテーマ曲を作りクラブで披露するとそれが受け、ライブにも呼ばれるように。その後はアルバムも自主制作した。

「ポスター、歌詞カード、ステッカーとか全部別々で頼んで、パッケージにはこだわりましたね、俺はとりまとめみたいな感じでした。皆で絵描いて、それを歌詞カードにまとめて入稿データにしたりして。いつも立場的にRepYourSelfではそういう役割ですね」

大学を卒業すると、すぐにフリーランスのグラフィックデザイナーになったMESS。高校時代からCDジャケット制作やクラブでのライブペインティングを行ったりするなど、規模は小さいながら仕事を受けていたことで、繋がりとなるような知り合いが多かったのだ。また、iPhoneで友人のPVを撮影し発信もしていたため、ものづくりのポートフォリオ的なものを持っていたのも大きい。

「先輩のデザイナーにも相談したんですよ。一ノ瀬雄太さんっていう人で、彼は俺が大学生の時にたまたまTwitterでアシスタントを募集していて。一ノ瀬さんのことも知らなかったんですけど、フリーでやってみたいという気持ちがあったので連絡をとってみたら、面白がってくれて。週一のアシスタントのバイトさせてもらってそこから結構お世話になっています。俺のプラン的には最初は下積みで会社に入って5年、10年くらい働いてから独立、みたいなのを描いてたのですが、一ノ瀬さんが『いけるっしょ』と。失敗するなら若いうちの方がいいって。で、やっちゃいました」

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MESSの人間力を信じる周囲からの後押しによって独立し、現在はグラフィックデザイナーとして、RepYour Selfのクルーとして、遺憾なくその器用さを発揮している。今後も、エディトリアルや雑誌、Webに飲食店のデザインなど、やってみたいことが多々あるという。

「要望や制約の発生するクライアントワークを進めていくなかで、『俺はこっちの方がいいと思うんだけどな』みたいな好みが逆にすごくわかってきて。それをRepYourSelfの方で爆発させています。ひと昔前はひとつに集中せず、色々手を出すことに悩んだこともありました。器用貧乏になってしまうんじゃないかって。でもいまは開き直って、色々やってるからこそできるものを探そうと考えています」

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MESSがデザインした、RepYourSelfオリジナルパーカー。愛称“REPYS”の文字がヒップホップで可愛い(Photo by D)

「俺が商品みたいになれたらいい」

趣味も仕事もないまぜになった生活を送っているMESSは、いまやっていること全部が楽しいという。「俺が商品みたいになれたらいい」——そう語るように、MESSの元にはその世界観を求めて、依頼が絶えずやってくる。最後に、10年後にどうなっていたいか、未来の展望を聞いてみた。

「超理想としては、すごい好きなものをつくってて、それでたくさんお金を稼げてて、家族がいて養えてるといいですね。わりと家族は欲しい派ですね」

最後にちゃっかり“家族”を出してくるのだから憎めない。任侠映画の主人公から“悪いこと”だけを消し去ったような男気あふれるその存在は、隣にいるだけで負った傷の痛みさえも引かせてしまうくらいの、絶対的な治癒力をもっている。川口のヒーローはこれからも若いスターとして、老若男女の心を掴んでいくに違いない。


Photo:VICTOR NOMOTO
Text:RIO HOMMA